俺のお袋の話。
お袋が親父と結婚したての頃、うちには「昌枝さん」というお手伝いさんがいたらしい。
とは言っても近所の人を雇ってたそうだが。
田舎の家だったので、台所から土間に通じる小さな勝手口がある。
ある晩、晩御飯の洗い物も終わって、彼女がぐらぐらに煮えたお湯をその勝手口から外に向かって思い切り捨てたところ、一匹の狐が餌を探しに山から下りて勝手口まで来ていて、その狐の後足にぶっかかってしまった。
狐はぎゃあぎゃあ鳴きながら裏山に逃げていった。
彼女は「あらあら、可哀想なことをしたわねぇ・・・」とその狐に同情したものの、月日が経つにつれてそのうちすっかり忘れてしまった。
数ヵ月後、その日は月が見事に明るく輝いている晩だった。
彼女が台所で洗い物をしていると勝手口の方から、
「昌枝さん・・・昌枝さん・・・」
居間にいたお袋たちには、昌枝さんが誰かと話をしている声が聞こえてた。
「はいはい、今行きますからねぇ」
それから彼女が勝手口から表に出て行った気配はわかったらしいが、そのまま一晩、彼女が帰ってこなくなるとは誰も思いもしなかったそうだ。
翌日近所の人が総出で探したところ、裏山にある、木が生い茂ったところで、木から伸びたツルに首を引っ掛けて死んでいた。
それから俺のお袋は、必ず沸かした湯は水で冷まして捨てるようになった。
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