実家の山のお話です。
うちの実家はものすごい山の奥で、家から出て20Mも歩いたら山の入り口なんです。
小さい頃から危ないから山には入るなって言われてたけど、気になる。やっぱり気になる。
それも、笹がアーチみたいに入り口形作ってるし、もうそれ見るだけで冒険の始まり。
マムシとかも出てたしね。
これは山の中であったことじゃないんだけど、山から下りてきただろう何かの話。
小学校五年生ぐらいかなぁ。多分夏休み中。
夕ごはん食べて、扇風機しかなかった食卓から離れて自室で窓開けて外見てたんだ。
ちょーど薄暗くなるぐらいの時間。7時とか多分そのくらい。
夕凪が吹いてきてて結構涼しい。クーラーとか全然必要ないみたいな。
だから窓開けて、ゆっくり藍色に変わっていく景色眺めてたんだ。
あれ?歩いてるのになんで体揺れないんだろって疑問に思いながら、ずーっとそれ見てた。
ゆーっくりゆーっくり、下りてくるの。
それが丁度、うちの庭に埋められてる樹の陰にすっぽり隠れる形になる。
よし、あいつが出てくるまで見ててやろうって勝手に根競べ。
じーっと見る。
樹の陰にも目を凝らしてみる。
あれ?白いもの無いな。どうしてだろうな。
そんなこと考えながら、多分5分ぐらい眺めてた。
出てこない。
出てくる気配が無い。
あ、本物やんって思った瞬間、
ぶわっと全身に冷や汗が沸いて、家族の居る座敷に逃げ出した。
暫く自分の部屋には戻りたくなかった。
でも、結局寝るときには自分の部屋。
あいつが居座ってる状況とか、めっさ想像しながら部屋に入ってみた。
さっきと一緒。なんにもない。
多分、あれは別のとこいったんだと思って、どうにかこうにか布団にもぐりこんだ。
それこそもう夜の便所は、ちょっとした肝試しです。
で、便所。
便所の小さな小窓から外が覗けるようになってるんだけど、ぼーっと其処みながら排泄中。
そしたら、なんか聞こえるんだ。
何行ってるんだかわからないけど、なんか聞こえる。
ぼそぼそぼそ、ぼそぼそぼそって。
何あれ?月明かりに反射してるにはちょっと白すぎる。
結構遠くだったんで、じっと目を凝らしてたんだ。
しっぽ?あれしっぽ?長いものが見え隠れする。
でもなんか、頭の方が可笑しい。
ぼそぼそは多分あれだ。
なんだ?何言ってんだ?
ぼそぼそぼそぼそぼそ、胴が切れる、くっつく。
新種?とか、宇宙人?とか思いつつ観察してたんだけど、どうやらそいつは私には気がつかずに、ゆっくりと山の方に歩き出した。
その日はなんとも思わずに寝ちゃったんだけど、目が覚めて恐怖に震えた。
やっべ、なんか変なもんみたなって感じだった。
爺ちゃんはそういうの完全否定派なんで、「馬鹿んじょーいいよる!」って怒られた。
でも、爺ちゃんはこんな話もしてくれた。
今更だけど、あの白い何かは、山から下りてきた何かだと思う。
多分、そんな気持ちの悪いものじゃなく、
「よう!いっつもいるから心配スンナ!」みたいなノリ。
山の神様にしては気持ち悪いし、でも悪いものにしては愛嬌がありすぎる。