礫ヶ沢のつぶておにの話をしようと思う。
うちからそう離れてない山の中の小さな川なんだけど、そう言う名前のところがあるんだ。
で、確かにそれは石なんだけど、ぶつけられても痛くない。
でも、それをうちに持ち帰ってはいけない、と言う決まりになっていて、
「鬼の礫は向こう岸」、といって川に投げ込まなければならないんだ。
その理由をばあちゃんに聞くと、
「昔話みたいに鬼がやってくるから」
そう言うんだよな。
簡単に言えば、鬼が石を持って鬼じゃないヤツにぶつける、
ぶつけられたらそいつが鬼になって石を持って追いかけるというもの。
だからぶつけそかなうと、それを探している間かくれんぼの様を呈してくる。
「鬼の礫は向こう岸」
と叫ばなければならないと言うこと。
イヤなことに、その死体は肝が食い荒らされていた。
そんで、そこの子供の姿はなかったモンだから大騒ぎだったらしい。
せめて子供だけでも、と言うことだったんだろうね。
ところがさ、それを聞いて青ざめたのが一緒に遊んでいた子供達で、
「じつは大変なことをした」
とばあちゃんにこっそり話した訳よ。
それは最後に鬼になったのが例の家の子供で、礫を探している間に、みんな帰っちゃったらしいのよ。
で、ここからはばあちゃんの推測なんだけど、
ところが「鬼の礫は~」をしていないから鬼がついてきたんじゃ無かろうか、と。
子供心に心配になったばあちゃんは村のお寺のお坊さんに相談に行ったんだって。
そしたら婆ちゃん、坊さんに怒られる怒られる。
なんか一生分怒られたかと思うくらい怒られたんだって。
「今思えば、やったのは自分じゃないから理不尽この上ない」
そう笑って話してくれたけど、とにかく凄い剣幕だったんだって。
で、坊さんは村の駐在さんと村長さんを呼んで何やら話し込んでたんだけど、婆ちゃんは子供だから蚊帳の外。
ヤツの表情は凄い面変わりしていてまるで獣のような表情だったんだって。
そして、そのとき婆ちゃんはしっかり見たんだそうだ。
子供の手に鬼の礫があるのを。子供の影に角が生えていたことを。
実はここまでが前ふりだったりする。
今年の夏、うちの実家に大学の友達3人が遊びに来たんだ。
まあ、キャンプをするのに手頃な河原はないか、ってことで礫ヶ沢を推薦したんだけどね。
それで、河原で2泊ほどして帰ったんだけど、そのときつぶておにの話をした訳よ。
BとCはそう言った方面には全く興味がないから、
「いやがる奴がいるならあえてするまでもない」
と言うことでその場は終わりになったんだ。
「?、なんで」
「なんでもオカルト研の連中に例の礫の話をしたら盛り上がったんだって」
すると、Cもイヤなことを言い出すんだ。
そう言うことになったんだ。
が、俺の顔を見たとたん、Aは凄い勢いでまくし立てたんだ。
いや、正直もう何を言っているかも分からなかったんだけど。
とにかく、凄い怯えようで、俺たちはAのアパートに連れ込まれた。
Aの話を要約するとこんな感じ。
あの後、礫ヶ沢でつぶておにをオカルト研でやりに行った。
実際鬼の礫を見つけてつぶておにをやってみると、不思議なことに確かに石なのにいたくない。
その後、「鬼の礫~」をやらずに石を持って帰って調べてみよう、そう言うことになって、石を持ち帰った。
ところがその帰り、夜の国道を走っているときに異変が始まった。
礫ヶ沢に行ったオカルト研はA、D(Cの知人)、E(教育学部の地学研究室)の3人。
石を持ち帰ったのはE。
普段はやたらおしゃべりなのに、帰りの道中では殆ど口をきかない。
「まあ、疲れているんだろうな」、位に思っていた。
3人が帰りにコンビニに寄り、飲み物なんかを補充していると、Eが飲み物の他にカッターなんかを買っている。
そのときは「おかしなヤツだな」、程度しか思わなかったんだ。
コンビニを出るとき、Eの影に角が生えているようにAには見えた。
ギョッとして見直すと、コンビニのガラスの影の具合でそう見えただけのようだ。
「つぶておにの話を聞いた後で、神経質になっているんだ」
そう思い直して車に向かったとき、車からDの悲鳴が聞こえた。
それはEがカッターでDに斬りつけたところだった。
Eは開きかけのドアに捕まり、車に引きずられていってしまったそうだ。
一人残されたAは恐怖に震えながらタクシーで家に帰ったそうだ。
後日、Aは大学で連中のことを聞く。
その日、Dの車は近くの陸橋で自爆事故、Dはそのときの怪我で入院中、Eはその日以来姿を見せていないとのこと。
Aはその話を聞いて、
「次にEが来るのは自分のところじゃないか」
そう思ってアパートに閉じこもっていた。
目つきが尋常でなく、いやな笑い顔でぶつぶつ言っている。
その常軌を逸した姿を見たとき、俺の背筋は冷たくなった。
男は手にした石でガラスを割ると、ゆっくりと部屋の中に入ってきた。
何とかその男を取り押さえた時に、ドアの外から警官の声がしたんだ。
「こんな怪しい風体の男がベランダをよじ登ったりしてていれば通報もされるわな」
なぜか冷静に考えていた俺の脇では、Aが失神してしまっていた。
Aは実家に帰って、その後のことは知らない。
寺の住職に電話をしたら、俺がこっぴどく叱られる羽目になった。
たまにBとCで飲むときに少し話すくらいだ。
ただ、ひとつだけ気になっていることがあって・・・
鬼の礫、その行方がどうなったか。
あのとき、Eを取り押さえたとき、部屋に鬼の礫が転がったはずだが、警官がやってきたときには石の姿は見えなかった。
いや、警察が押収していれば、住職が何とかしているだろうけど。
もし誰かが持っているのなら、今でもそう考えると背筋が寒くなる。