DQN

これは俺が厨房の頃の話。

その頃は、まだ、DQNじゃないとダサいってイメージがあった尾崎全盛の頃。
その頃、俺達は、夜な夜なみんなで原付を無麺で運転して近所にある山に登りそこから何する訳でもなく、タバコを吹かしながら市内の夜景を一望するっていうのが、流行ってた。

まぁ、夜景見ながら厨二病的に浸るっていうのが良かった。
単純に体力が余ってた。だから、本物DQNみたいに悲惨でもなく。
学校に行くし、クラブ活動や塾とかにも通うしみたいな奴らも多い集まりだった。
単純に瀬戸内沿岸部の田舎だったから、同級生男子は、みんな幼馴染、警察も駐在所はあれど、事件らしい事件はないから、夜の巡回もない。

原付は、台数が足りないと、Aっていう一人だけ悲惨な家庭事情を持つ奴が、かまって欲しさに他の地区に行って、俺達が学校に言ってる間に、盗んで来てくれたり、地元に長年放置してある。腐る寸前の動く物を見つけて乗っていた。

そんなある日、いつもの様に公園で近所に迷惑のかからない様に静かにダベって、する事ないし、夜景見に行こうってなった。
盗んできた原付ってヤッパリすぐ調子が悪くなり、動かなくなるっていう事はたまにあったし、動いてもスピードが出ないだとかあった。

その日は、
俺=№2的存在。何するにも中途半端で人生苦労する
A=悲惨な家庭事情の奴(登校拒否)ありとあらゆる運転の達人で盗人DQN
B=親が大手の元重役。今も親友で記憶力抜群。DQNだったが後に校正
C=頭も良く運動神経抜群。リーダー的存在で親友
D=小柄な一人っ子で頭の悪いDQN
E=一つ後輩で、Dの弟的存在
とういうメンバーだった。

原付は、3台しかなくて、それぞれ二人乗りで頂上を目指すことにした。
Aと俺(A車)
BとC(B車)
DとE(C車)
てな具合で山を登った。

登る途中、民家がなくなると、暴走族のマネしてみたり、奇声を発してみたり、いつも浮かれてた。
頂上に着くと夜景見たり星空見ながら、いつもの様に、なんか青春してた。
で、飽きたから帰ろうかって山を降る事にした。ここから事件が始まる。

この山頂への道は、大きく2つのルートが存在してた。
一つは、降った先が地元のルート。
一つは、地元から少し離れた場所に降り、海沿いを戻ってくるルート。
いつもは、地元ルートで登り降りをしてたが、今日は気分変えて、降りはもう一つの方でってなった。

途中、C車がついて来ていない事に気付いた俺が、B車に声をかけ停車。
ソロソロ寿命が近いのかスピードが出ないC車だったから、原付動かなくなったかって事で、
B車にそこで待ってもらい様子を見に行く事に。
というのも、盗んだ原付だ。ガソリン入れるのも苦労あるからね。
燃費を考えA車のみで確認に行った。

すると途中、小川が流れ、それを渡る小さな橋の前で、C車のDとEが原付に跨ったまま
立ち尽くしてる。
俺が「どうした?壊れた?」って声をかけると、二人は「寒い。本当に寒い」と言い出した。
何を言っているのやら???季節は終わりかけているとは言え、夏だ。
小川が流れてるから、多少は肌寒いが、そんなに震える程の事ではない。
ましてや、走ってる時の風は生暖かい。

「訳の分からない事言うな。行くぞ。」と声をかけ、二台で並走する形で、B車の待つ場所まで、30Kmくらいのスピードでゆっくり降り始めた。
その走ってる間も、それぞれ後ろに乗る俺とEで話してた。
しかし、ヤッパリEは、「本当に寒いんだって。」の繰り返しだ。
「お前ら、変なもんでも見たんじゃね」と俺がからかっても、「そんなもん見てない。でも寒いんだって。」とEは言う。

そんな会話をしながらB車に合流し、残った二人に説明するが、当然B車の二人も???
ってな感じだ。
で、よく解からんが、取り敢えずいつもの地元の沿岸にある公園に帰ろうと言う事になった。

遅いC車を時たま気にしながら、3台で沿岸の道路を走る。
そして、地元に入る。いつもなら、公園にそのまま原付で乗り入れるのだが、あまりにC車の様子が可怪しかったので、公園まであと数十メートルって所の民家の前で早いA車とB車が停止し、路肩に原付を止め、少し遅れてくるC車の二人を待つ。
先に到着した2台の原付に乗る四人が、原付を降りたくらいにC車が到着。
C車が止まるか止まらないかで、誰かがC車の二人に声をかけた。

「大丈夫か?」
C車の運転手Dが、スタンドを立て、原付を自立させたかと思った次の瞬間。
「お母さんが、呼んでる」
と叫び、海に向かって走り始める。

一同、呆気にとられてるが、Aが他より少し早くDを追いかける。
それを見て、残った俺達が我に返り、後を追う。
Dはそのまま、腰程度しかない堤防を乗り越え、砂浜に飛び降りる。
高さ2m程度だから、みんな後を追って砂浜に飛び降りる。

本当は、Dは運動神経でいうと、このメンバーでは明らかに悪い。
少し出遅れたからといって、俺を含む他のメンバーが追いつけない訳がないが、みんな走りながらも、ヤッパリ混乱して全力疾走してない。
Dは、兎に角、海に走る。

そんな中、先に走りだし全力疾走のAが波打ち際で、ようやくDを捕まえた。
Dに跨り、「意味が解からん。やめろ。」と制止しようとするが、Dは暴れる。
俺達が遅れて到着した瞬間。
Aが「糞がァーーー」と叫びながら、Dの顔面をぶん殴った。
殴られたDは、我に戻ったのか辺りを見回す。

「俺、何してた???ここ、どこ???」
って、オイっ!!何だ、その有り触れたセリフと俺は心の中で思ってたが、Cが事の次第をDに説明するが、Dは何の事やらって感じでポカァーンとしてる。
取り敢えず落ち着っこうみたいな雰囲気で、いつもの公園に戻る。

みんな今起こった事を理解しようとあぁだこうだと言い始める。
「Dのお母さんが呼ぶはずはない。一人っ子のお前を殺すなんて考えられん。」
Dのお母さんは、少し前の台風で亡くなっていた。
この日降りた場所の対岸にある島で、夫婦で小さい寿司屋を営んでいたが、一人っ子の息子が心配で、台風の中、夫婦で車で帰宅途中、道路が陥没し車ごと海に流され父親は助かったものの母親は、溺死していた。

みんなその事を知ってし、葬式にも出てる。
厨房にもなってもそれぐらい溺愛されていたんだから、疑う余地がないと言うのが、みんなの意見だった。
また、みんな黙る。
Eが言い出した。

「D君、運転中にも途中の直角カーブの直前で、急にバンザイして、俺、凄い慌てて、後ろからハンドル握って、体倒して死ぬかと思った。」
もう、それ聞いて、みんな青ざめた。
こいつ、絶対、なんかに取り憑かれたと俺は思った。
そんな会話の中で、至った結論は、変な霊に取り憑かれて、その霊がお母さんのフリをして、Dを殺そうとしたって事になり、怖いから帰ったら、お清めの塩を体に撒けよという事で、解散した。

あまりに怖く、みんな始めての体験だったので、この日の事を話す人間は居なかったし、
段々とクラブや高校受験の対策やらで、忙しくなって行き、夜出歩く事も少なくなっていった。

あの事件から数年がたち、あの当時のメンバーもAが本格的にDQNになり、本職さんにも、警察にも追われる身になったりと、色々あったが、それなりの生活を送る社会人になった頃。
俺と親友のB、Cで飲みに出ることになった。
Bは、DQNだったが頭良く。三人の中で一番稼ぐ奴になっていた。
というか、20代前半であれぐらい稼げれば、勝ち組決定した様なものだった。

その日も、Bの奢りで飲み歩いていた。
スナックの様な飲み屋で、怖い話に話題がなった。
そこで、ふとあの事件を思い出した俺が、もう何年もたったし良いだろうと、
「時間もたったし、あのDが取り憑かれる事件。あれヤバかったね。」
「E、死んじゃうし。」

そう、あの事件以降、実はもう一つ厨房時代、事件が起きていた。
相変わらず仲の良かったDとEは、地元の解体屋のおっさんからミッション付きの50ccバイクを内緒で格安購入し、乗り回してた際、出稼ぎメキシコ人が運転する軽トラが逆走して来て、正面衝突。
運転手のDは顔面からフロントガラスに突っ込み、顔面凶器に、その他、骨折。
一時はICUに居た。
後ろに乗っていたEは、反動で後ろに吹っ飛び、ノーヘルだった為、酷い脳挫傷で亡くなっていた。

俺的に気になっていた事を言ってみることにした。
「今だから言うけど、あの死んだ場所って、あの時、原付止めた場所だよね。」
と俺が言うと、Cは続け様に、
「そうそう、あれね。あの事件の前にも実は、ヤバイ事が実はあったんだ。」
俺とCは、その話を知らない。

B曰く、実はあの日の数日前に、一度、ボロいあのC車をあの山の中腹にある地元ルートの途中の小川に捨てたが、前日、ヤッパリ台数ないとみんなで移動出来ないからって、絶好調のA車に3人のりをし、C車を引き上げに行ったらっしい。

で、後輩のEが、水たまり程度しか水の流れていない小川に入り、原付を引き起こした際、ハンドルに何か絡まっているのを触ってしまって、「わぁーーー気持ちわりぃーーー」と叫んだらしい。
で、手に絡まったそれを見ると、それは人の髪の毛だった。

Bは、そんな気持ち悪い原付なんて乗れるかと内心思い、その日は、A車に乗って帰り、事件当日も、B車に乗ったんだそうだ。

Dは、普段、運転させて貰えないから喜んでC車の運転手に。
そのDの弟的Eは、その後ろになったという事だった。

Dは、次の日普通に登校し、特に違和感を感じなかったが、Eはあの日以来、ずっと、顔色が悪かったって事。
俺達三人は、あいつは取り憑かれたままだったんだって事になった。

しかし、解らない事もある。
あの髪の毛は、死人の物???それとも生きている人が呪いとかに使った物???
少なし、自殺者が出たなんて話は、小さい地元では当時なかった。
俺は、今もその田舎に居る。
Eが亡くなった場所も、歩いて3分くらいの所で、生活してる。

この話を思い出すと、今でも本当に怖い。
俺自身は、霊とか見たこともないし、見たくもない。
しかし、葬式など行ったりして、違和感を感じたら、根拠はないが、心の中で何も出来ませんよと思いながら、体に塩を撒く事だけは欠かさない事にしている。

ほんのりと怖い話85

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