とある冬山で、遭難した登山者の死体が見つかった時のこと。
捜索隊に加わっていた人から、こんな話を聞いた。
遭難者はメモ帳に、死ぬ寸前まで日記をつけていたらしい。
日記の最後の方は飢えと寒さのためか、字が乱れていて読めたものではなかった。
しかし、日記の最後に書かれた二行の文章だけは、はっきりと読むことができた。
『おとうさん おかあさん もうかえれません ごめんなさい
たのまれたので かきました』
まるで子供が書いたような下手な字で、平仮名だけが使われていた。
字は強い筆圧で書かれており、遭難者の書いた字体とは明らかに違っている。
遺族にメモ帳を渡す時には、最後の一行は破りとったとのこと。
山にまつわる怖い話59