黒イノシシと大ミミズ

その①、黒イノシシ

こいつの話は結構古いもので、時代的には明治か大正頃とほとんど昔話になる。
当時、件の山を含む周辺の山々を縄張りにする、熊と見間違うほど真っ黒な毛色をした雄猪がいたらしい。
この黒イノシシは両の牙が折れていて、『牙折れ』や『牙無しの黒』とも呼ばれていたそうな。

これだけならただの黒いイノシシなんだが、昔の人たちはこいつと遭遇するのを酷く恐れた。
というのも、黒イノシシは随分と不吉な存在だったからだとか。
黒イノシシは人間と遭遇しても、突進してくることはまずない。
代わりに歯ぎしり(牙ぎしり?)をして威嚇し、ギシ、ギシ、と大きな音を鳴らす。
面と向かってこの音を聞いた人は、後で災難に見舞われたんだそうだ。

どのような災難かというと、山を下りてから病気になり高熱にうなされる、道端で休んでる時にマムシに噛まれる等々。
なぜそのような不運に見舞われるのか、当時の拝み屋が言うには、見えない牙で、人の見えない急所(運気とか厄とか)に噛みつかれるから良くないことが起きるのだそうだ。

そんなんだから黒イノシシは荒神の類いとして扱われて、山の一角に小さい祠を建てられ祀られた。
その祠の中に納められた御神体は、牙に似た形の石だったそうな。

なぜそんな石が御神体になったかというと、黒イノシシは目に見えない牙で、本来なら触れられない人の運気や厄に触れて悪さをする。
だから形のある牙をお供えすることで、これ以上運気や厄に触れないようにし、祟りを起こさないで貰おうって理由らしい。

現在、黒イノシシが姿を消してからは祀り事は風化し、祠もほとんど放置状態とか。個人的には少し残念に思っている。

その②、大ミミズ
大ミミズといっても、青っぽいヤマミミズのことではない。
こいつに遭遇したという話の中で最も新しいものは、村で商店を営んでいる近所のおじさんの体験で、彼が子供の頃の話になる。

ある日、おじさんが彼の叔父と所要で山に入り、小雨の降る山道を歩いていた時のこと。
道端の藪がワサワサと揺れており、「何だろう?」と思ってそちらに目をやると、青大将ほどもある巨大なミミズが這っていた。
おじさんもそんなに大きなミミズは見たことがなく、衝動的に捕まえに行こうとしたそうだ。

しかし、「止めい」と叔父に服を掴まれ、止められる。
その間に大ミミズは藪の中に隠れてしまった。。
「あんな大きいミミズ、捕って帰ればみんな驚くのに」と愚痴ると、「あれは、まだ子供じゃけん」「大人がおれば、お前ぐらいなら飲まれるかも知れん。藪に入ったらいかん」と彼の叔父は言う。

おじさんも流石にその話を聞いて怖くなり、ミミズを追うのを諦めたらしい。
おじさんが彼の叔父から聞いた話によると、大ミミズは雨の日ほど山道の近く、つまり人の近くに現れやすく、雨の日は山道を外れて藪の中に入ってはいけないのだそうだ。

俺が聞いたことのある黒イノシシと大ミミズの話は以上で終わり。
で、前回書き込まなかったこれらの話をなんで今頃になって書いたかというと、俺の甥っ子が大ミミズの方に遭遇していたことが分かったかので、それを機に書き込ませてもらった。
正月に久しく帰郷した際、同じく顔を出していた甥っ子と話をして発覚したんだが、去年の夏に遭遇したんだとか。

話を聞くに、甥っ子は自由研究の昆虫採集で山に入っている時にヘビぐらい大きなミミズを見つけ、おじさんのように捕まえようとしたらしい。
しかし、途中から夕立が降ってくるわ、山の野良犬さんと遭遇し後をつけられるわで危ないと感じ、断念したそうなと俺は大ミミズのような妖怪じみた奴は、流石にもう山にもいないだろうと思っていたんだが、そういったものもまだまだ山にはいるのかもしれない。

山にまつわる怖い話60

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