ある有名な話について、興味深い話を聞いたので、少し書いておこうと思う。
会社の先輩と言う人が割とオカルト話が好きな人で、同行営業の折に停車中の車の中でそういう話で盛り上がった事があった。
その人は俺より一回り以上歳上で、子供の時分は、所謂『見世物小屋』と呼ばれる胡散臭さ抜群の見世物がまだまだ、そこかしこで見られたそうだ。
そんな人であるから、俺はこの地方でも特に有名なある話について聞いてみた。
「そういえば、牛女って話、知ってます?」
『え。何それ?』
「知らないですか? ほら、六甲山に出てくる牛頭の着物女って言う話なんですけど・・・ここら辺じゃ有名らしいですよ?」
どうやら知らないらしい彼女に、俺はネットなんてかで見聞きした話を話してみる。
すると、先輩は少し考えるような素振りを見せて不意に、
『ああ。それ、違うのよ』
「違う?」
『うん。まだ、わたしが子供の頃なんだけどね・・・』
わたしが子供の頃ね、六甲の山に遠足に行く事になったの。
その事を近所のお婆さんに話したらね、彼女、真剣な顔でこんな話を教えてくれたの・・・
六甲の山の中を歩いているとな、大きなお屋敷を見かける事がある。
だけど、そこには決して近づいたらあかんよ。
そこはあるお金持ちの別宅でな、でも今は使われておらんのよ・・・
と、言うのもそこの家と言うのが、たった一代で大きなお屋敷を幾つも建てたんやけど、ある日、そこのひとり娘が、急におかしくなってしまたんよ・・・気がふれたんやね。
方々の医者に診せては見たけど、一向に良くならない。
それで、世間体もあったんやろうなあ、最後には六甲の山の中に建てたばかりのそのお屋敷に娘さんを隔離してしまったそうや。
でも、身の回りの世話をする使用人も最低限しかつけてなかったんやろ。
しょっちゅうお屋敷を抜け出して、山の中を叫びながら走り回ってたそうでなあ。
婆ちゃんも、見たことは無いけど子供の頃、山の中で「ぎゃあああ!」って叫ぶ声を聞いたことあるしなあ・・・何にせよ可哀想な話や。
『だから、それは牛女とか言うものじゃないと思うのよ』
「ははあ、なるほど・・・でも、何でそれが牛女になったんですかね?」
問いかける俺に、先輩は『ああ、そうそう』と頷き、
『そのお金持ちって言うのがね、何でも精肉業か何かで身を立てたらしいのよ。ほら、当時お肉って言うと牛らしくてね・・・お婆さんも「殺生が過ぎたんやろうなあ」って言ってたわ』
「なるほど『肉屋の娘』→『牛屋の娘』転じて『牛の女』つまり『牛女』って事ですか・・・でも何か、こじつけっぽいなあ」
『ん~・・・でも、わたしの子供の頃に「牛女」なんて話聞いたことないしねえ』
そう言いながら、先輩はゆっくりと車を発車させた。
とまあ、そんな内容なのだが、全然怖くないな。ゴメン。
ほんのりと怖い話50