幸運の足音

数年前の話を一つ。かなり長文です。

大学4年の春休みに当時の彼女(現在は嫁)が車を購入。そこで俺、彼女のN、そして一つ下の後輩Yの3人で泊まりの旅行を計画。
桜のシーズンだったのでそれに見合った候補地をいくつか挙げていった所、Nの田舎が桜の名所と言うことが判明。
そこで物は試しとNがその田舎に住む祖父母に連絡を取ったところ、コレがあっさり宿泊OK。

俺とN、Yの3人は親同士がすでに昔からの友人同士。なのでつきあいも長く、3人でのの旅行は初めてではない。
最終的には、俺たち3人に加えNの妹、中学生のAちゃんを加えて4人で行くことに。

当日はNの車だが終始運転は俺と後輩Y。

俺「なーNのお爺さんの家ってやっぱデカイん?」
N「やー普通やないかなー?古いけどええ感じの所よー」

と 前の座席で俺とNがだらだらしゃべり、
後部座席では190近い巨漢のYに小柄なAちゃんが小猿のごとくギャーギャーと絡んでいる。

所々でで休憩を挟みつつ5時間ほど車を走らせ、ようやくNの祖父母の家に到着。
辿り付いたNの祖父母の家は、中々に大きな日本家屋。
白壁の頑丈そうなつくりで、予想よりもかなり立派な家だった。

穏やかな物腰で出迎えてくれたNの祖父母に挨拶と感謝の意を伝え、早速自分たちが泊まる座敷部屋に通された。家の中も予想とおり広く、良い意味で年季の入った本当に素晴らしいと家だと思った。

が、明らかに無視できない所が一つあった。

それというのが一階の縁側にそった、長い廊下。

そこには人形や剣玉、おはじき等、今では中々お目にかかれない、懐かしいおもちゃが廊下に沿ってずらっと並べて置いてあった。
出しっ放しというわけではなく、明らかに意図的に並べて置いてある。

Y「・・・ズラッと並んでますね」
俺「・・・N、あれなんぞ?」 
N「あー・・・お供え?」
何故か疑問系で返された。

見ると廊下の突き当たり右手は仏間。亡くなった人の中に小さな子供でもいたのかと思ったが、あまり立ち入ったことを聞くのは失礼だろうと、深く詮索はしなかった。

夕飯をいただいた後は4人とも俺とYが寝る2階の座敷部屋に集まりのんびりしていた。
俺はNと一緒にTVで映画鑑賞。YはAちゃんに捕まりマリカーを延々としてた。

異変が起きたのは、夜も更けた頃だった。

閉めた襖を挟んだ長い廊下から、トタタタタと誰かが走る音が聞こえた。

んえ?とおもわず俺は変な声をあげた。この家にいるのは俺たちとNの祖父母を含めて6人。
俺たち4人は部屋の中に全員いるし、時刻は午前12時過ぎ。
Nの祖父母はすでに一階で就寝済み。
足音は軽めで、少なくとも大人のものではないと思った。

この家に猫等のペットはいないし、何よりその走る足音は間違いなく人のそれだった。
これが俺だけが聞いたのなら、無理にでも空耳だと無視することも出来た。
が、足音がした瞬間、全員の視線が襖に集中したので間違いなく4人とも足音を聞いている。

Aちゃん「いま廊下走ってたの・・・誰?」
俺「さあ・・・?」
Y「ネズミとかじゃないっすね。足音的に。」
Aちゃん「・・・うえ、初めて聞いた。姉ちゃん何、もしかしてアレ?」

とAちゃんは怖がりながらも、何か知っているのか今の足音についてNに聞いている。
しかし聞かれたNは襖を見るも、すぐに映画の方に目線を戻し、「まー古い家だから気にせんでよ」と、アハハと笑って特に慌てた様子もない。
しかも怖がるどころか、微妙に喜んでいるように見えた。

 ・・・いや、古い家だから何よ?と、俺がそのあたり詳しく聞こうとすると同時、Yがのっそり立ち上がり「見てきましょうか?」と聞いてきた。
空き巣の可能性もあると思ったのだろうか、この武闘派のガチムチはこういうとき非常に頼りになる。

これ幸いと「よっし、連れション行こか!」と俺が怖くてトイレに行けなくなる前にYをつれ、小便を済ますことにした。
この家はトイレが3つ(男用1、男女両用2)あるのだが何故か全て1階にある。
俺等が寝泊まりするのは2階なので当然階段を下り、長い廊下を歩いていかなければならない。

俺「ええか?Y、何ぞ幽霊とか出てきたら張り倒してな?」
Y「いや、人ならともかく幽霊は・・・すり抜けません?」
俺「いやいや、気合いよ気合」

などと気を紛らわす為にYと馬鹿話をしながら、気合いを入れてトイレに向かう。
が、特に変なことも起きず。
そのまま二人で小便を済ませ、多少肩すかしに思いながらも、すっきりして帰ってきた。

そうして俺達が部屋に戻ると、そこにはAちゃんが姉であるNに、一緒にトイレへ行ってくれ、と必死に懇願している光景が。

しかし映画が佳境に入っていたのか、えーあー言うだけでNの腰が中々上がらない。
一向に立つ気配のない姉に背に腹は変えられないと判断したのか、「・・・Yちゃん、ちょお一緒にお願い」とAちゃんに依頼され、おう、と再びYが同行。

しばらく時間が経った後、いつも通りなYがのっそりと、そしてそのYにピッタリと張り付きながら、何故か先程よりも怖がっているAちゃんが帰ってきた。

いや、どした?と話を聞くと、なんでもAちゃんがトイレを済ませ、階段を上がる途中で今度は一階から走る足音が聞こえたらしい。
「え、マジ?」と俺がYに聞くと、「あ、はい。トトトって音だけでした。姿は見えんかったです。」と、真面目な顔で報告。こういうことでYは悪ノリしないので信憑性はかなり高い。

が、その話を聞いてもNは「二回目かー今日はええねー」とこれまた暢気に笑っている。
しかもコレはもう間違いなく喜んでいる。茶柱が立ったー、とかそういったときの喜び方だ。
人様の家にケチつけるのもはばかられたので聞かずにいたが、さすがに説明が欲しかった。
いい加減に教えれやと詰め寄った所、そこでようやくNから説明がされることに。

それによるとNが子供のころから、この家ではこういう事(誰かの気配とか足音とか)は割と良くある事らしい。
一年に数回の頻度で起こるらしいが、このことは身内全員が知っており(Aちゃんも話は知っていたがあまり祖父母の家には来たことがないらしい)、今ではもう慣れてしまったのこと。

このように足音等は時々聞こえるが、しかし実害は全く『0』とのこと。
というか、信じがたいことだが、この足音が聞こえると、近いうちに身内の誰かに降って湧いたような「良いこと」が起こるらしい。

例えば捜し物が見つかるとか、疎遠だった友人に再会するとか、思わぬ朗報が届いたとか、そういった類の予期せぬ幸運良縁が高確率で転がり込んで来るんだとか。
それがこの足音のおかげかどうかは定かではないが、実際、この家に住んでいた家族一同は皆健康で、目立った悪い話を今まで聞いたことがないそうだ。

そして、この足音の正体だが、家族の中でもほとんどその正体を見たことが無いんだとか。
ただ唯一の目撃者がこの家に住むNの祖父。

30年以上前に、見知らぬ小さな女の子がこの家の中を歩いているのを見かけた事があるそうだ。
その女の子を見た所というのが、まさしく俺達が気になった、例のおもちゃが大量に並べてあった廊下。
その女の子は、廊下の突き当たりまで歩いて行くと、そのまま右手にある仏間に入り、祖父が慌てて後を追ったが、女の子が入ったはずの仏間には誰もいなかったんだとか。

その唯一の目撃情報と、足音の後に高確率で起こる「幸運」からか、この家ではこの足音を、半ば座敷童のようなものとして丁重に扱っているそうな。
一階の廊下にズラッと置いてあったおもちゃの類は、まさしくその感謝と持て成しの証だった。

翌日、昨夜の足音をNの祖父母に報告したところ「そりゃあよかったなあ」と2人ともとても喜んでくれ、素晴らしいエビス顔を見せてくれた。

その後2泊ほどしたが、結局足音が聞こえたのはその初日だけ。
その後は特に何もなく無事帰宅した。

足音が幸運のサインというのは未だに半信半疑だが、実際に自分自身がそれを聞いて体験した事なので、強く否定が出来ない。
また、その後も自分自身に目立ったトラブルも無く、健康そのものなので、今でもこの家には長期休暇の度に好意でお泊まりさせてもらってる。
身内の中ではもはや恒例行事みたいな扱いで。

本当に長々とした駄文長文失礼しました。

不可解な体験、謎な話~enigma~ 83

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