ベル音

2年くらい前までバイトしていた居酒屋での話。

俺は夜にシフトはいってるんだけどその居酒屋は昼はランチもやってる店で、人手が足りないのと俺が暇だったってのもあってランチバイトを手伝うことになった。

うちの店は客が店員を呼ぶ際にはボタン式のベルを押してもらうことになっている。
客がボタンを押すと電光掲示板みたいなところにその押された部屋番号が点灯するのと、ピンポーンという音が店内に響くことになっている。
その音が聞こえたら接客中でもなければ絶対に「はい、只今お伺いします」というのが店の決まりだった。

店の開店は11時半。
それに間に合わせるべく10時半くらいから開店準備をしていた。
すっかり準備も整って開店するまでパートのおばちゃんたち2人と雑談をしていたときだった。

ピンポーン…

「はい、只今お伺いしま……え?」

返事をしかけて、思わずパートのおばちゃんと顔を見合わせる。
ベル音が鳴るはずがない。
まだ開店していなくてお客さんは店内にいるはずもない。
開店準備も終わって、俺とおばちゃん2人は一箇所に集まって話をしていたんだから。

暫く無言の状態が続いた。

「俺、ちょっと見てきます」

掲示板を見る。そこには確かに部屋番号が点灯していた。
部屋を覗いてみるが、当然人などいるはずもなくましてメニュー表などが倒れた形跡もない。

「なんともなってなかったです。何だったんでしょうね、あれ」

努めて明るく振舞った。
しかしパートのおばちゃんは少し表情を強張らせながらこんなことを聞いてきた。

「ベル鳴った部屋って、14番じゃない?」
「え……」

なんで、知っているんだろう。
おばちゃん達がいるところから掲示板は見えるはずも無く、俺もどこの部屋から鳴ったなんて言っていないのに。

「……どうして、分かるんですか」
「……この店、たまにこういう風に誰も居ないのにベルが鳴るの。鳴る部屋っていうのが14」

そう言えば、夜バイトの人が言っていた。
誰も居ないはずの部屋で髪の長い女の人を見たことがある、と…。

俺はもう居酒屋を辞めてしまったので確かめる術は無いのだが…
今でも誰かが店員を呼ぼうとベルを鳴らしているのだろうか。

ほんのりと怖い話54

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