断末魔

12年ほど前の某ダムでのこと。

もの凄い減水であちこちでダム底が露呈していて、俺は川の流れ込みだったチャンネル痕を歩いて散策していた。

突然
「ぎゃああああああああああああああ、がっ!」
という男の悲鳴・・というかむしろ断末魔?
そして俺の後ろに
ドサッ!
と血まみれの男が降ってきた。

びっくりしてかけよると、男は血まみれで目を開けたままピクリともしない。死んでる?
どうやら上の道路から20m下の地面に転落したようだ?
でもこんなとこなんで転落?まさか殺人?犯人はすぐ近くに?

怖くなってとりあえず警察に電話。
しかし当時俺はPHSで電波が繋がらない。
どどどどどないしょ、もう置いて逃げるか!
とか思っていたら、
「うー、いてててて・・・」
男が息を吹き返した。

事情を聞くと、道路脇の木に札束が覗いてるカバンがひっかかっていたので、回収しようとして転落したとか。

「それでカバンは?」
そう聞くと男は、
「それが不思議なんだよ、手に届いたと思った瞬間に消えちまって同時に落下した」
「・・・」
それから男はヨタヨタしながら自力で歩いて去っていった。

気になった俺は男が落ちたという道路脇に寄ってみた。
カバンなんてどこにも無い、男のヨタ話か?
と思っていたら、カバンは無いが美味しそうなアケビがなっていた。

俺は吸い寄せられるように木に登って取ろうとした。
が、ふと下を見た時あまりの高さに怖くなり我にかえった。
前を見るとアケビなんかどこにも無い。
俺はガグブルしながら慎重に戻った。

「もう少しだったのに」
頭の中で男とも女ともわからない声が囁やいた。
道路脇には花が添えられてあった。
速攻で逃げ、帰りに兵庫エースレーンのうどん屋でダシ巻き定食を食って帰った。
味なんてよくわからなかった。

山にまつわる怖い話62

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