鏡のおじさん

私の家でのお盆の過ごし方は、帰ってくるご先祖様のために「迎え団子」という簡単な団子を作り、お盆が終わる日には「送り団子」を作り、夜は母方の親族の遺骨が納められている納骨堂へ、父母と私、そして弟の4人で提灯片手に送りに行っていました。

送りに行く際、毎回母親からこう言われていたんです。
「納骨堂へ行く時、私たちの後ろにはご先祖様たちが着いて来ている」
「お寺に着くまで後ろを振り返っては駄目。振り返ってしまうとご先祖様たちが帰れなくなる」
そう言いきかされていました。

この年、納骨堂は新築されたばかり。
昔は地下に一族のお骨が収められいたのが、新築後は4階に場所が移りました。
確か私は当時高校生で、弟は小学校高学年ぐらいだったと思います。
けっこー仲がよかったこともあってか、互いの背中を突っつき合ってなんとか振り向かせようとふざけ合っていたりw
父や母にもちょっかいを出していましたが勿論スルー。

うちの家族・・・というより両親は時間厳守とかでもない限りは時間に対してルーズな面があるため、私たちが向かってた頃は既に納骨堂へお参りしに行ってる人たちなんてほぼいませんでした。
目的のお寺に到着し、父母は脱いだ靴を整えたりするため普通に後ろを向いていたりしていたのですが、私と弟だけは変に意地を張って振り向こうとしませんでした。
確実に私は振り向いていませんが、弟も恐らくそうだったと思います。

時刻は20時頃で、本堂にはお坊様とお参りにきたであろう人たちが数人ほど。
納骨堂はお寺のすぐ隣に隣接しており、まずは入り口すぐのご仏像にお参りを済ませます。
ここまで昔の納骨堂と変わりはありません。

ご仏像の右手にはエレベーターと階段がありました。
先にも書いたように、以前は地下だったのが最上階の4階へ移動したため、
エレベーターで向かうことに。
扉が開くと中に縦1mくらいはあるそこそこ大きめな鏡が設置してありました。
私と弟は後ろを振り向かず、エレベーターに入ったため、正面に鏡、背中に扉があるといった感じです。

そして何事もなく4階へ到着。
ここでやっと私と弟は振り向き、エレベーターを出ようとしたその時、弟がポツリと一言。

「あれ、一緒に乗ってた男の人は・・・?」

父母と私は「えっ?」としか言えませんでした。
だって、私たち家族以外でエレベーターに乗っていた人なんていません。
ただでさえ遅い時間で誰もいない薄暗い納骨堂。
今思えば場所が場所なだけに怖かったはずなのですが、おかしな話、怖かったという記憶があまりないのです。

かと言って弟の話を信じていないわけでもありません。
なにせ、弟以外の私たちはそれぞれ「この世のものではない人」と接した経験が一応あるため、そういった存在はあるだろうという認識はありましたから。
(父に至っては、自殺した友人の部屋に入る→憑り付かれてお寺行きということがあったとか)
何より、弟は冗談とか言うような性格ではないですし・・・

帰り道に弟の話を聞くと、
「背がそこそこ高く、白黒?のストライプ柄の服を着ていた細めの中年男性」だったそうです。
ずっと振り向かないで鏡を見ていたら見知らぬおじさんがエレベーターに入り、振り向くその瞬間まで私たちと一緒にいた、のだと。

母が私たちに言い聞かせてた通り、そのおじさんは私たちのご先祖の方だったのか、それとも全く関係のない人だったのかは分かりません。
これは私の憶測になるのですが、母の親族の中に今も行方の分からない男性がいるのです。
この件の後、今から2・3年ほど前にいわゆる霊能力者の類の方から「その男性はもうこの世にはいないだろう」と言われ、その後母はその方の供養をしました。
もし、この人があの鏡のおじさんだとしたら、祖母達の眠る場所へ自分も行きたかったのでしょうか・・・

ほんのりと怖い話64

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