私は当時小学6年生。
夏休み直前のある日の事で、むせ返るような暑さだったのを覚えてる。
掃除の時間になり、私は同じ班の友達4人と共にトイレ掃除をしていた。
自分の担当部分の掃除を終えた私は、壁に寄りかかって何気なく窓の外を見た。
ちなみに私たちが掃除していたのは4階のトイレで、窓からは校庭が見下ろせる。
最初は「いい天気だなー」なんて言いながら空を見上げて、その後視線を校庭の中央に下ろしたところ、ちょうどその視線の先、校庭のまさにど真ん中に、1人のお婆さんが歩いているのが見えたんだ。
腰が曲がっていて、片手には風呂敷で包んだ大きな荷物を抱え、もう片方の手で杖をつき、止まってるんじゃないかってくらいのゆっくりとしたスピードで歩いていた。
そのお婆さんは着物なんだけど、可笑しな事にあの暑さの中、長羽織を着ていた。
私は当時から着物に興味があって、あれはどう見ても真冬の格好なのに変だなと思った。
それにそもそもこんな時間に小学校の校庭をおばあさんが歩いてる事自体が不思議だ。
(うちの小学校は校門と校舎が近く、校庭は奥にあるため来客が校庭を通る必要もない)
私はトイレの方を振り向いて、友達に「ねぇちょっと」と声をかけた。
それからすぐに再び窓の外に顔を向け「ほらあそこ、」と指差した時には、そのおばあさんは居なくなっていた。
目を離したのはほんの2、3秒程度。
そんな短い時間で、校庭のど真ん中から見えなくなる距離まで移動できるとは考えられなかった。
でも何度校庭を見回しても、とうとうあのお婆さんは見つからなかった。
私の他にそのお婆さんを見たという人はいないし、私が見たのもほんの10秒程度だったので、夏の暑さが見せた蜃気楼みたいなものだったのかもしれないけど今でもこの時期になると当時の事を思い出して不思議な気持ちになる。
蜃気楼や幻にしては輪郭がはっきりとしていたし、細部までよく見えたんだよね…
ほんのりと怖い話66