鬼百合

夏休みに嫁の実家に遊びに行った時の事なんだが、田舎なので何もする事がなく、義父と居間でテレビを見ていたら義母が気を利かせてビールとツマミを持って来た

まだ昼を過ぎたばかりだったが、義父は当たり前のように「さあ、やろうや」と笑顔でビンを傾ける。
俺も好きな方なので「いいっすね、じゃ僕が」とビンを奪って注し返す。
ツマミを見ると何かの天ぷらだった。
「鬼百合よ。家のすぐ裏に生えるの」と義母が言う。
天つゆに浸けて食べてみた。少し苦いが美味い。ビールとよく合う。

ビンが一本空いたくらいでもう天井が回り始めた。
あれ、そんな訳ないと思いながら座卓に突っ伏したところで意識がとんだ。

どれくらい経っただろう、三味線と太鼓の賑やかな音で目を覚ました。
窓の外はもう真っ暗だった気がする。
部屋には着物姿の芸子らしき女がいて楽しそうに踊っていた。
傍らで楽器を鳴らしてるのは義父と義母だ。
2人とも笑っているが目が妙に据わってる。
俺はいつの間にか座卓と一緒に隅に寄せられていて、ぼんやりそれを眺めていた。
家に芸子を呼んだのだろうか。それとも踊ってるのは嫁かな?

ふと芸子の顔を見ると顔が無く、鬼百合の花が頭を垂れていた。
体は着物姿の女だが、頭だけがオレンジ色の花になっている。
俺は思わず息を呑んだ。被り物かと疑ってみたが、どう見てもそれは花だ。
俺は怖くなると同時に子供の事が心配になった。

壁にもたれながら必死で立ち上がり、よろけながら部屋を出ようとした時芸子とぶつかり、芸子の頭がポロリと落ちた。
義母の悲鳴が響き渡り、義父が何やら大声で俺を罵倒した。
「外道」とか「畜生」とか言った気がする。
俺はふすまに当たって倒れたあたりで再び意識を失った。

次に目覚めたのは翌朝の布団の中だった。
義父母も嫁も普段通りで、昨夜の奇妙な出来事を聞いてみたのだが、誰もそんな事は知らないと言う。
だが、ふすまには小さな穴があいていた。

それからは特に変わった事はないが、嫁が実家に帰る時は俺を置いて、子供だけを連れて帰るようになった。

山にまつわる怖い話67

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