介護を担当していた爺さんに聞いた話
爺さんの若い頃には、町の近くの山にも鹿や兎が住んでいて、仕事の傍ら猟師をしてる人が多かった。
猟ではいくつも決まりがあって、守らないと八分にされて大変な目にあったんだと。
その一つに、山で殺した獣は必ず喰う。というのがあった。
その中でも蛇は絶対喰えと教えられていたそうだ。
一口でも喰えば相手も諦めがつくが、無駄に殺されたと思わせれば返しが来るんだと。
蛇は執念深くて恐ろしいからな。と爺さんは言っていた
栃木日光マタギと呼ばれる猟師は仙北マタギなどと違い、比較的大きな集団ではなく、猟師仲間として少数名で狩りをするのであるが、毛皮の需要などと銃による狩りの普及と共に、山での怪事に遭遇したときの話が様々にある。
その中で鹿撃ちの際に、鹿をおびき寄せる鹿笛というものを使うが、笛の弁に蟇(ヒキガエル)の皮を使わないようにしたという禁忌がある。
鹿笛という物は発情期の雌鹿の声を真似た音を出すものだが、笛の弁に蟇の皮を使うとベストな音を出せるのだが、なぜか蟇を使った鹿笛の時に限り、大蛇が現れるという恐ろしい事が度々起きたそうだ。
もし大蛇を撃つ場合、必ず背後から撃たねばならない。
大蛇は鱗が堅く、鋳掛けた鉛弾では通らぬ事があり、背後から鱗の間隙を狙って撃たねばならない。
これをコケラ撃ちといい、コケラ落としからの意味がある。
大蛇を撃ったら必ずそれをぶつ切りなどにして、肉の一部を少しでも食わなければならなかった。
老猟師たちは『喰え、ちっとでも喰うもんだ』と言い、若い猟師たちに大蛇を鍋で煮させた。
こうしないと大蛇は必ず祟ると言われ、鍋で似ても悪臭のある虹色の脂がドロドロ浮いて、とても人が食えるような代物ではなかったという。
それでも最終的には生姜を擦って鍋に入れ、工夫して昔の若い猟師たちは口に入れたそうだ。
昭和初期の頃だという。
山にまつわる怖い話67