小学校2年生の時の話です。
とある土曜日、親戚で不幸があり両親ともにお通夜へ出席することに。
私は一人家で留守番する事になりました。父はそのまま泊まり込みで、母は12時前には帰れるから、ご飯を食べてシャワー浴びたら寝ときなさいと言い残し外出。
私は一人きりの時間を不安混じりにも見放題のテレビを見てエンジョイしておりました。
うちは九州の田舎なので隣家とも少々距離があり、あたりはとても静か。
8時9時台のバラエティーも終わり、ニュースの時間帯になってくると、あ~もう何もする事無いな~お風呂入って寝ようかなという感じに。
寝転がってマンガなど読みながら暫くだらだらしてますと、玄関のドアをノックする音が。
てっきり母が帰ってきたのだと思って私は玄関へ駆けていきました。
すると磨りガラスの向こうに大きな人影が。母は身長150センチくらい、父にしては横幅がある、?と言う気持ちで「はい」と声をかけたら野太い男の人の声で「お嬢ちゃん、お父さんいるかな?」と。
うちの父はかなりの酒飲みで、父の飲み仲間がよく家へ来て飲み会をやっていたのですが、てっきりその友人の一人かと思い、不用心にも「お父さんはお葬式にいっていません」と即答しました。
すると暫しの間の後「お母さんは?」と。
母は飲み仲間の人たちからは、親しみを込めて”マサエさん”と呼ばれたのです。
子供心にも疑念を感じ、あれ?この人家に来る人じゃないのかな・・・、どうしよう、何て答えようともじもじしてると、今度は少しキツい調子で「お母さんもいないの?」と。
私はそこで、この人はどうしてなまってないのだろう?と気がつきました。
明らかに地元の人の話すアクセントではないのです。
段々と不安が胸を占めていき、男の質問に答えられずにいると、今度は優しげな猫撫で声で「お嬢ちゃん、一人かい?」
と聞いてきました。
私は泣きそうになり、無言でその場に立ち尽くしていると、「ちょっと開けてくれるかな?おじさんお父さんに届け物に来たんだ」と優しい口調で言いました。
声を振り絞って「あ、明日また来て下さい」と答えると、少しの無音の後ドアのノブがガチャガチャと大きな音を立て、激しく回り出しました。
男の意図を感じ取った私はもう心臓はもうばくばくで、呼吸は止まりそうな程。
助けを呼ぶために叫ぼうにも声は出ず、凍り付いていると今度は磨りガラスをこぶしで叩く音が。
ドンドンと言う大きな音とともに「お嬢ちゃん、開けて、開けてよ」と男は怒鳴りだしました。
止めて下さい、と鳴き声で何度も叫ぶと「うるさいっ!!!」と大喝されました。
その声でびくっとなり、電話のある居間へ駆け出しました。
ただ受話器を取っても何処にかければいいか分からず。
両親のいる斎場の番号は分からない、110番にかけて怒られはしないかと、受話器を抱えたまま泣いていると、背後でガシャンと言う音が。
振り向くと居間のガラス窓の窓が割られて大きな穴が。
心臓ばくばく最高潮でで口があうあうなりながら振り向いた姿勢で固まっていると、黒いジャンパーの大きな腕がにゅうっとガラス穴から伸びてきました。
私は漸くその段になってきゃーっ助けて-!っと些かドラマめいた口調で叫び出しました。
腕は手探りで窓のロックを探してます。
ロックを見つけ外そうと腕が動きを早めると今度は玄関の方で違う音が。
玄関を平手でバンバンと叩く音が聞こえ、「マミちゃん!マミちゃん!おばちゃんよ。今警察呼んだから!」と誰かが叫びました。
私はその声に呼ばれるように玄関に駆けだし、引き戸を開けてその声の主に飛びつきました。
声の主は隣のおばちゃんで、知らない男の怒鳴り声が聞こえたので様子を伺っていたらガラスが割れる音が聞こえたので飛びだしてきたと。
警察を呼んだと言うのはおばちゃんの咄嗟の嘘だったのですが、効き目があったようで男はいつの間にか消えていました。
おばちゃんはうちに上がるとすぐ110番。
私はおばちゃんにすがって泣いていました。
警察が来たのは何も知らない母が帰ってくる少し前、それから30分立ってからのこと。
母は泣きながら私を一人で留守番させたことを謝り、話を聞いた父もすぐ帰ってきました。
結局、男の正体は何も分からず、流れの空き巣狙いじゃないかと言うことになったようです。
余談ですが、うちの町は九州の東シナ海沿いにあり、不審船の目撃例多発地区です。
また謎の失踪や行方不明も少なからず聞く町です。
男の正体も目的もはっきりしないせいか、あれから随分と時間が立ちましたが未だにトラウマです。
うるさい!と怒鳴られた場面と、窓の鍵を手探りで探す黒いジャンパーの腕は何度も夢に見てうなされます。
落ちも何もなくすみませんが、これが私のほんのり怖い話でした。
ほんのりと怖い話71