兄バカ

俺には弟がいた。
7歳年下で、兄バカって言われるくらい可愛がってた。
弟も俺によく懐いてて、近所でも評判の仲の良さだった。

中学の修学旅行に行く朝、弟が行くなと言って泣き出した。
小学校の時もあったことなので、困ったなーと思いつつも、特別驚いたりはしなかった。
「俺が行ってる間、マイケル(犬)の世話頼むなー」とか言って宥めて、ようやく出発した。

一日目の夕方、弟に呼ばれた気がして振り返るが、いるわけがない。
俺も気にしすぎかなと思ってたんだけど、なんとなく心配になって、夜に宿舎の電話で家にかけた。
弟が出て、何もなかったかと聞くと、昼寝をしている時に俺の夢を見たと言った。
不思議だったけど、双子とか兄弟ってテレパシーのようなものがあるって聞くし、それみたいなもんかななんて、ちょっと嬉しく感じていた。

二日目の夕方、レクリエーションでいろんな建物を見て回っている時、俺は友達とふざけてて道路に飛び出した。
といっても、そこは建物の敷地内で、滅多に車が通らない場所なので、かなり油断してたんだと思う。
クラクションに驚いて振り返ると、搬送用らしい大型トラックがかなり目の前まで迫ってた。
ア、っと思った瞬間、体が突き飛ばされたような感じがして、轢かれたー!と思って目を閉じた。
だけど実際は、危機一髪で歩道に戻っていて、擦り傷程度で済んでいた。
トラックのあんちゃんが慌てて降りてきて、「撥ねたかと思ったぞ!」とこっぴどく叱られた。

その夜、また家に電話をするとまた弟が出て、またまた俺の夢を見たと言ってきた。
事故のことは話してないのに、『どうろにとびだしたらいけないよ、はねられるとすごくいたいんだよ』なんて言うもんだから、
ほんとに俺たちには目に見えない絆があるんだな!と浮かれていた。

だが、翌日帰宅した俺を待っていたのは、病院のベッドに寝たきりになっている弟の姿だった。
母親の話によると、前日の夕方買い物から帰ってくると、弟が昼寝をしている部屋からうめき声が聞こえる。
何事かと思って覗きに行くと、弟が息も絶え絶えの様子。
何かの発作だろうかと、慌てて抱きかかえようとするが、身体に触れると異常に痛がる。

途方にくれて救急車を呼び、運び込まれた病院で検査してもらったら、結果は全身打撲。
だけど、うちはベッドじゃないから、落ちて身体を打つなんてことも無いし、そもそもそんなレベルじゃないらしい。
まるで車に撥ねられたかのような…
俺は、あの時助けてくれたのは弟なんだと直感した。
「俺のせいだからずっと付き添う!」と言って(当然誰も信じなかったが)、その日から泊り込みをはじめた。

翌日、身の回りのものを持ってきてもらおうと、家に電話をかけると弟が出た。
あれ?今病室にいるはずだよな、なんで?と思ってると、すぐに母親の声に変わって、聞き間違いかーと、そのときはあまり気にしなかった。
電話を切って病室に戻ると、なにやら騒がしい。弟の容態が急変していた。
その日の夜、弟は息を引き取った。

俺はその後、数ヶ月悲しみに暮れ、動物が飼い主の身代わりになるって話は良く聞くのに、どうせならマイケルが身代わりになればよかったのになんて、かなり酷いことも考えていた。

高校に入って、俺は家にあまり帰らなくなった。
弟のことを思い出すのが嫌で、夜遊びばかりしていた。

ある日、いつものように遊び歩いていると家から電話が。
またかと思って、いつもなら無視するけど、そのときはなぜか出てみる気になった。
すると、聞こえてきたのは弟の声。
『おにいちゃんはやくかえってきて、ぼく、マイケルとあそんであげられないよ』
それだけ言って電話は切れてしまった。

俺が慌てて家に帰ると、母親が電話中だった。
俺に電話が掛かってきた時間も話していたと言う。
だけど履歴にはちゃんと『自宅』の表示が。
玄関から追いかけてきたマイケルが、じーっと俺の顔を見ていて、
その顔を見ているとむしょうに泣けてきて、俺はマイケルに謝りながら一晩中泣いていた。

今はそのマイケルもかなりじーさんになってしまったが、ちゃんと最後まで俺が面倒を見るつもりだ。
ただひとつ気になるのは、今も家に電話をかけると、時々最初に弟の声が聞こえることがあるということ。
嬉しいような、洒落にならないような。

死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?47

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