そこは横浜の有名な繁華街に程近く、朝に手配師に拾われなかったアブレや追われて行き場を失った人達がひっそり生活している街。
タバコのばら売り、靴の片売り、中古の足袋や軍手、ワンカップを買うと沢庵の尻尾が付いてきたり煮込みには何が入ってるか分からない。
毎年冬場には無念の想いで亡くなる人も多く、地元の人は避けて通るような所だ。
自分は当時勤めていた会社や人間関係に嫌気がさし、いつしかこの街に通うようになってしまった。
そんな人達に混じりテレビを観ながら街頭賭博をしてた頃背後に見慣れない姿の人が立っていた。
僧侶である。
衣はボロボロで垢だらけ、素足に長い錫杖、首には大きな木製の数珠が掛けられていた。
この街で托鉢など見たことは無かったが素足がやけに気になった。
どんなに酔いつぶれていてもサンダルや靴ぐらいは皆履いている。
そしてこの僧侶、人懐っこく周囲の者に何かを話し掛けているのだが、皆無視をしているのか通り過ぎるばかりで足を止めようとしない。
そんな光景をぼんやり見ていると自分に気付いたらしく近寄って来た。
背丈は小さく160センチ位で60歳ほど、顔は皺だらけで真っ黒、異臭を放っていた。
博打をしている連中を指し『これは何をしてるのか?』と聞いてきた。
自分はKの囮走査かと直感し口を噤んだ。
この街の掟みたいなもので分からなければ見て覚えろ『聞いちゃいけない』と言われた通りにするしかなかった。
相棒を肘でこづき変なのが居る事を伝えようとして振り返ると、砂が風にさらわれるように足元から消えて無くなった。
一瞬の出来事だったがまだ異臭は残っていた。
それを告げると誰一人見たものは無く、後から聞いた話にはこの街には僧侶の姿の貧乏神が住んでいるらしい。
人の運をさらって行き、最後には絶命に追い込む悪い神らしいが、偶然その姿を見た者には幸運が訪れるらしい。
で、現在の自分だがそれから5年、紆余曲折あったが数人の人を雇えるほどの飲食店を経営している。
ほんのりと怖い話75