山の魚さん

昔、山に入って遊ぶのがマイブームだった時の事

17歳頃だったか、山で運悪く野良犬に追いかけられてしまい、逃げてる最中に2mくらいの高さの崖?から足を挫きつつ転げ落ちた。
アドレナリン出まくりの状態だったから恐怖とかは全く感じず、ひぇぇぇぇぇwwwwwって思って爆笑しながら落ちた。

気がついたら石を枕にして気を失ってた。
しかも夜になってて、怒ったら2mくらい殴り飛ばされるほど恐ろしい父親を思い出して「やべっ早く帰らなきゃ!」って凄い焦りながら立ち上がったんだけど、たった瞬間立ちくらみでぶっ倒れて動けなくなった。

やばいやばい…とは思うんだけど、やばいのベクトルは「夜の山に一人でいること」とか、「お化けが出そうなほど暗い」とかじゃなくて完全に「父親に殴り飛ばされる恐怖」に向かっていた。
子供の頃はとにかく親に怒られることを恐れてたからね。

さてどうしたもんか…と思っていたら、視界の端を何かが横切った。
ネズミか?と思って視線をめぐらすけど何も無い。
気のせいかと思っているとまた…といった感じで、暫く弄ばれていたと思う。
いい加減ブチ切れそうになった辺りで、「大丈夫か?」と声をかけられた。
人の気配なんて全然しなかったから、すっごいびっくりして声も出なかった。

声がした方を見ると魚の頭をつけた人が立っていた。
めだかの学校って漫画に出てくる先生みたいな感じで、すごいツヤツヤだった。
びっくりしすぎて声を失っていたら、魚の口がパクパク動き。
酒くさい臭いをさせながら、「痛い、するのか?」って喋って思わず「うわぁ喋った…」って言ってしまった。

魚顔だから何を考えているのかわからなかったけど、暫く見つめあった後、「送る」と一言言って魚さんにおんぶをしてもらった。
魚だから正面は見えていないんじゃ…という不安をよそに魚さんはしっかりとした足取りで、子供とはいえ高校生の体をおぶって黙々と歩いてくれた。

本当に感謝の一言だったんだけど、なんか尾びれが頭を叩くんだよね。
気まぐれで動かす尾びれが、ぺちって頭に当たる。
一応頭ぶつけてるから、ちょっとした衝撃で具合が悪くなっていくので、申し訳なさを前面に出しつつ尾びれが当たってることを伝えたら魚さんはちょっと思案した後、再び地面に下ろされた。
で、そのまま魚さんは歩き出した。

えぇw置いてくのかよwwと思ってたら、すいーっと体がちょっとだけ浮いてまっすぐ仰向けに寝た状態で魚さんの後をついていくかの様に動き出した。
わけのわからんまま暫く進んだんだけど、薄雲を被っていた月が顔を出したときに体の下にまっくろくろすけみたいなのが敷き詰まってて、コロコロ転がりながら運んでくれているのが見えた。

辺りが見知った風景になってきて、無事家の近くまで辿り着けたんだけど、もうちょっとの所で急に魚さんは立ち止まった。
どうやら山から出られないらしく、ここからは一人で行けと…

近くまで来ていたし、体調も少しだけ回復していたので丁重にお礼を言って家まで自力で帰ったんだけど、真ん中の娘が山に行ったきり、なかなか帰ってこない!ってわけで、家に帰ってからが一番大変だった。

今にして思えば、多分あの魚さんは山の神様だったかなぁと思う。
山の神様用に用意したお土産の大吟醸が空になってたし、すごい酒臭かったから。

山にまつわる怖い話71

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