閉鎖病棟

夫から聞いた話です。

昨年、夫は秋田県にある私立の精神病院に、パート勤務しておりました。
ご存知の方も多いでしょうが、精神病院には開放病棟と閉鎖病棟と2つの病棟があります。
閉鎖病棟の出入りには鍵を必要とし、患者さんも一般生活が困難でありそうな方々が入院しています。

秋田県の郡部の方が多く、近年まで続いた近親婚の影響も多々見受けられ、閉鎖病棟から退院、もしくは開放病棟に移る方は稀で、家族からの懇願もあり、一生を閉鎖病棟で過ごされる方が殆どと聞きました。

閉鎖病棟の中ほどに女性患者の個室があり、なぜか入室して2ヶ月ほどすると、患者さんが亡くなってしまうという噂の部屋でした。
夫もその噂を聞いて以来、病室の前を通ると気味が悪かったそうです。
月に2~3度のパート当直勤務ですが、そのうちに顔見知りの患者さんや、自分の診断で入院させた患者さんも増えてきました。

秋頃、痴呆で徘徊のすすんだ女性患者を、閉鎖病棟の個室に入院させることとなりました。
『噂の個室』なので気まずい思いだったそうですが、まあ噂は噂として吹っ切ったそうです。

次のパート勤務の日に、古株の看護婦さんにその女性患者のことを聞いたところ、
「やっぱり、今度も始まったのよ。病室のドアのすぐ横に布団敷くから、『どうして真ん中に敷かないの』って聞くと、『他の人が寝てるから』って言うの。前の人もおんなじこと言ってたし、気持ち悪いわよね」
と返ってきました。

夫はその後、一応病棟の回診には行ったそうですが、具合の悪い患者はいなかったので、そこそこにして帰ってきたそうです。

次の週に女性患者は、院内感染とみられる肺炎で亡くなったということですが、毎日『女の人が真ん中にいてうるさい』と、看護婦さんに話していたそうです。

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