お悔やみの広告

仕事にまつわるほんのり投下。
詳しく書くとアレなので、ところどころぼかします。

私の仕事は、いわゆる広告業。
中でも、お悔やみの広告(○○さんXX日死去、通夜は△時から●●で~みたいなやつ。新聞とか、ネットに載ってるんだけど、地方独自なのかな?)を間違いがないかチェックして先方に送るという、校閲業務を担当している。

当然、死後数時間の悲しみ真っただ中のご遺族と打ち合わせしなきゃならない。
たいてい電話なんだけど、たまに話の最中でいきなり狂ったように笑い出す人もいる。
泣きながら遺産相続の話をする人もいるし、怒り出す人も……。
やっぱり普通の精神状態じゃない。

ある日、男性から「新聞に載せたい」とお電話があった。

ウチには大抵葬儀社経緯で依頼が来るんだけど、たまに遺族から直接電話が来ることもある。
それは言い。けれど、
年齢の感じは、中~高年。

なのに、お ネ ェ こ と ば なのは、ものすごく気になった。

いつものように個人情報保護法などの簡単な説明をして、名前から確認しようとしたら、「昨日は葬儀社が連絡したんだけど、葬儀社が違う名前で送ってしまった。直接訂正したい」とのこと。

その方いわく、昨日送ったのは【田中ミツ】さんだけど、正しくは【田中晃】さん(ともに仮名)が亡くなったのだそうだ。 情報を提供した遺族と、亡くなった方の名前が逆になっていたと、大層お怒りだった。

確かに、確認したらそう書いてある。
とりあえず、宥めて正しい情報の確認開始。
その間も、オネェ言葉が気になって仕方がない。

で、色々終わって、最後に

私「では、貴方様のお名前とご連絡先、【田中晃】さまから見た続柄を教えて頂けますか?」
男「それは、内緒なの」
私「え?……それでしたら、広告は出せませんが……」
男「でも、晃は死んだのよ。ミツは生きてるのよ」
私「いえ、あの……」

ここら辺から、段々男性の様子がおかしくなる。

男「死んだの。晃が死んだの」
私「それでも、田中様のご家族ということがはっきりしていませんと、掲載は…」
男「晃は死んだのよ!ひひ、ひひひひひ」

本当にこんな笑い方だった。
今までにも笑い出す人はいたけど、ここまでわけのわからない人も初めてだった。
もうゾッとしてしまって、一刻も早く切りたくなってしまった。

そこに、ベテランの先輩(男性社員)が通りがかった。
私は、とりあえず「上司に相談しますので、少々お待ちください」と告げて、先輩に【田中ミツ】さんの件を知っているか聞いてみた。
すると、「あぁ、それ俺が受けた電話だわ」とのこと。
私が田中晃さんの件を話すと、先輩は顔をしかめて。

「え?だって、俺に掲載の依頼をしてきた男性は、【田中晃】さんだよ?オネェ口調の男性」

結局、電話は切れていました。
【田中晃】さんは、自分を死んだと広告に出して、一体何がしたかったのか。

ほんのりと怖い話78

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