空耳

幼少期、誰もいないのに声が聞こえるっていうのがよくあった。
母子家庭で鍵っ子だったもんだから、家に帰ると一人で留守番ってのがよくあったんだけど、例えば
「ただいま」→「おかえり」
「疲れた」→「お疲れー」
みたいな感じで。

怖いとか感じるより、昔からあったから気にもしてなくて、もちろん家族にも言ってなかった。
家に誰かいると聞こえなかったし。

でも、年を追うごとにそういう会話?みたいのはなくなった。
当時ちょっとアレな家庭環境だったこともあって、現実逃避気味の妄想入ってたんじゃないかなと思うけど。

その代わり、一人の時以外で声をかけられるようになった。
上記みたいに返事じゃなくて、「ねぇ」とか「おい」とかそんな感じで。
それでついつい返事しちゃうんだけど、誰も呼んでないって言う。
自分でも、誰に呼ばれたとかどんな声だったかは覚えてない。
初めは家族も「また空耳かよww」って感じで笑ってたんだけど、あまりにも頻度が多い上に突然過ぎるから、段々気持ち悪くなってたみたいだ。

母がその空耳の中でも一番記憶に残っていると言ったのが、友人家族と一緒に出掛けた車内での出来事。
ファミリーカーで、母が助手席、友人母が運転席で、後部座席をフラットにして手前に友人兄妹、後ろに俺と兄が座ってた。
その時俺は兄と何か喋ってたが、どっかから「おい」って呼ばれたから振り返って「何?」って答えた。

俺以外全員キョトン。その反応に俺もキョトン。
母が「呼んでない」と言うも、じゃあ誰が呼んだんだよって話になる。
すぐ近くに座っていた兄も友人兄妹も誰もその「おい」は聞こえておらず、勿論誰も呼んでない。

よく考えれば母は「おい」なんて声掛けしないし、その声はちょっと遠くから聞こえたから兄や友人でもない。
結局空耳ってことでその場は流れた。(俺が空耳多いってのはもうみんな知ってたから)
でもその時母は、何の前触れもなく真顔でこっちを向いた俺の顔が妙に怖かったらしい。

まぁ、そんな感じで小学生時代を過ごし、高学年になった位に学校行事でとある大社に写生に行った。
適当に絵を描きあげて一人でウロウロしていると、坊さんっぽい人にあった。
着物を着ていて禿頭だったからそう判断しただけだけど。
その坊さんは俺をじっと見た後に、自分の耳を指さして「君は耳がいいね。だけど、もう返事をするのはよしなさい」みたいなことを言った。
その後すぐに集合時間になったので、坊さんと別れて帰った。

それからなるべく呼ばれても返事しないようにした。
初めは誰もかれも無視してしまって怒られたけど、次第に誰のだか分からない声には返事をしないようになった。
それまでは、ほとんど無意識に返事をしていたんだけどね。
で、その声も段々なくなって、今はもう聞こえません。

あの声が何だったのか今でもよく分からないけれど、俺が返事をしないようになってから一時、周囲の友人に空耳が増えたってことがほんのりかな、と。
(しかもみんな誰かに「おい」って呼ばれたって言う。○○(俺)のが移ったじゃねーか!ってしばらく言われた)

ほんのりと怖い話80

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