猟銃抱えて山に行った。
夜明け前に到着し、夜明けと同時に行動開始したが目当てのヤマドリが全然いない。
二つ横の山では、イノシシ(もしくは鹿)猟のチームが元気に大騒ぎしているが、こちらは・・・。
三つの沢を攻め上って収穫無しとなると、犬も人間もやる気が失せる。
連れとかなり遅い朝飯を食い始めた。
犬にもおにぎりをちぎって投げてやる。
五個漏ってきた大きめのおにぎりを三個食った。
ふと昔読んだ天城地方の昔話を思い出す。
山働きする衆は、仕切る天狗に許可を貰うべく「天狗に差し入れをした」そうだ。差し入れと言っても気軽な物で、おにぎりを「天狗!」と大声で叫びながら梢に向かって放り上げるだけ。
落ちてこなければ天狗が受け取った。
落ちてきたら天狗の機嫌が悪いわけで、その日は撤収だと。
そんな話を聞かせた相棒がその気になった。
「天狗さん! よければ食べて!」
見かけに似合わない可愛らしい声と共に、下から上へと放り上げた。
海苔が巻かれた黒い塊が勢いよく梢を貫いて(杉の木)…落ちてこない。
木の枝に当たって落下が大きく逸れたか。
でも音がしない。
揺れたのは最初に当たった枝だけだ?
首をかしげた彼がもう一つ放り上げた。
これも落ちてこない。
俺もやってみた。
「塩鮭入りだぞ-。美味いよ」
落ちてこないし。
タブーを破って全部射出してみたが一つも戻ってこない。
非常食のチョコレートバーもぶん投げてみたが、結果は同じ。
天狗さんからのご褒美が貰えるか(ヤマドリ)と期待したがゼロだった。
「定期的に貢がないと駄目かもよ」<相棒談
山にまつわる怖い話73