雪ん子

4年前の冬の話。

5月に山スキーをしに一人である高原に行きました。
場所はここには書かないほうがいいと思います。
3月だと雪量が多すぎ、5月だとスキーに適さないベチャベチャの雪になるような場所です。
計画は麓の温泉で一泊、雪中テントが一泊の予定でした。
幸い天候がよくて気持ちよかったんですが、いまいちワックスが合わず行程に時間がかかりました。

2日目、林の中でテントを張る場所を探してると小雨が降って、まだ2時過ぎなのに暗くなってきました。
それでとにかく林の近くの入り口あたりに大急ぎでテントを張って一息ついたんです。
コッヘルに湯を沸かして紅茶を飲み、テントにあたる雨音を聞いてると眠くなってうとうとしてしまいました。

気がつくとテントの中でうつ伏せに寝てしまっていました。
気温は4度ぐらいで十分着ていたので寒いということはなかったです。
時計を見ると午後4時くらいで、ああ2時間も寝て夜中に眠れないかなと思ったりもしました。
テントの外を伺うと薄暗くなっていましたが、雨は上がってました。
外に出て立ちションしようとしたら、林の中の10mくらい先を雪ん子が集団で歩いてたんです。

雪ん子というのは東北地方なんかの、名前を知らないんですが三角に藁を編んだ頭からすっぽり被るやつと雪沓を履いた子供です。
それが12~3人くらいでしょうか、2列になって歩いてたんです。
大きい子も小さい子もいて、小学校1年から3年くらいですか、男女の別はよくわからなかったです。

子供はそれぞれ背中に荷を背負ってました。
妖怪とは思わなかったです、最後に蓑を着て棒を持った男が一人と背の高いダウンジャケットの男がついていましたから。
何かの年中行事だと思ったんですが、それにしてもここはまず人が来ないところだし、集落までは子供の足だと4時間以上かかると思いました。

雪ん子たちはこっちに気がついてないようでした。
ちょうどテントも陰になって見えないところにあったと思います。
見ていると、子供たちのうち中列の一人が雪に足をとられてすてんと転びました。
するとそれに合わせるようにして前後の子もよろめいて膝をついたんです。
転んだ子の蓑がぬげて顔が見えましたが、日本人とは思えませんでした。
すごく頬骨が張りだした平べったい顔で、エスキモーを連想しました。
その子が耳を押さえながら「がうちあっ」というような響きで叫んだんです。

そのとき子供の手の間からザイルのようなのが伸びているのが見えました。
ザイルは前後の子につながってて、それで同調したように転んだんです。
最後尾にいた蓑の男が急ぎ足で子供に近づいて、棒で何度も背中を叩きました。
それから耳を押さえている子供の手を無理やり引き剥がしましたが、目を疑いました。
ザイルは子供の耳の中を通っているように見えたんです。

まあ暗くなっていたので見間違いなのかもしれません、輪にして結んでいただけかもしれないです。
蓑の男はは40代くらいだと思いましたが、やはりエスキモーかモンゴル人のような顔立ちで雪焼けか赤ら顔でした。
男はライターを取り出して棒の先に火をつけました。松明だったんです。
それで転んだ子供を叩こうとしたんです。もちろん火のついてるほうで。
そしたらもう一人の背の高いほうが駆け寄ってきて男の手をつかみ「タカイ!」と叫んだんです。
カタカナで書いたのは日本語のアクセントではなかったからで、スキー帽からのぞいているのは西洋人の顔でした。

その後、松明の男が先頭に立ち、西洋人は最後尾に戻って子供たちの列は進んでいきました。
大人2人がこっちに気がついたかどうかはわかりませんが、子供たちの一人と偶然目が合ってしまいました。
もしかしたらその子が後に大人に知らせたかもしれません。
その子もやはり日本人には見えませんでした。
後ろ姿を見送って、どうも子供の何人かは片腕がないように思えました。
着物の袖がぶらぶらだったんです。

今見たものをいぶかしがりながらそこで一晩を過ごし、翌日は早く出発して山荘まで行きそこでスキーを脱いだんですが、そのときザックに変な穴が2ヶ所あいているのに気がつきました。
上部を何かが貫通したとしか見えません。

膝がガクガクと震えました。
よくわからないんですが、銃撃されたのかもと思ったんです。
それで駅の近くの交番に寄って昨日見たことを話しました。
本署から人が来て調書をとるという形になってしまい、電車を2本乗り過ごしてその日のうちに帰れなくなるところでした。

やっと放免されたときに、担当した私服の警察官が「何かわかりましたら知らせます、知らせますが・・・もうこっちには来ないほうがいいです。
山歩きは別方面にいかれたら」というような話をしました。
いったい自分が何を見たのか今だに疑問です。

山にまつわる怖い話73

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