お猿さん

学校の授業であった、今思い出しても不可解。
というかヘンな出来事です。
長いけど、ちょっとつきあってくれ。

小学校一年生の出来事。
当時、自分が通ってた小学校の体育館は2階に設置されてて、ちょっと変わった構造だった。

それである日、先生が
「自分の座布団をここに並べて、自分のにはビニールをかぶせなさい」
って言ったんだ。
体育館のステージの下、ってパイプ椅子とか畳んで仕舞っておくスペースになってるじゃん?
この小学校は、ステージの下から電動で床がせり出てきて、ベルトコンベアみたいな感じでものが収納できるようになってた。
『なんでわざわざこんなことさせるのかな?』
って、不思議に思ったけど、小一の頭じゃ上手く言葉に出来なかった。

それから、多分放送室だと思うんだけど、撮影ブースみたいなところへつれていかれた。
そこで、年配のおばさんとベンチに一緒に座って、お遊戯というか、曲にあわせて簡単な体操をするのだと言われた。
映像を見ながら振付を覚える。
教育番組のエンディングにある、みんなで歌って踊ってみたいな感じ。
けど、映像の中でベンチに男性が座ってて、曲が終わりを迎えると郵便ポストみたいなのに、お金を入れていた。
募金なのかな? ヘンな番組だな。って当時は思った。

本番になった。
ベンチの端に人男性が座ってて、次におばさん。
おばさんの隣に2人分席が残ってて、曲のワンフレーズごとで交替しなさいと言われた。
仕舞った座布団がなんでここで出てくるのか?
男性とおばさんは何者なのか説明はなし。
自分たちだけ、立ったり座ったり忙しいな。
と思いながら、振付をこなす。

終わると、座布団と一緒に退場して、座布団はカゴの中に置きなさいと言われた。
それから、舞台裏っぽい、機材とか置いておくような通路を急きたてられながら走った。
後ろからおばさんもついてくる。
走っていると、突きあたりがあって、壁にアスレチックにあるような手足をかけるでっぱりがあって、そこを登れという。
そこで、おばさんがヘンなことを言った。
「後ろは絶対見ないで!」

人の流れが止まっちゃうからかな?
と思って登った。
登りきると、学校の裏側に出た。
それで、「あ、さっきの場所は学校の地下だったんだ」って気付いた。
それから、昇降口に戻って教室に帰った。
けれど、なんでわざわざ学校の外に出て戻ってくるんだろう?
入って来た時と同じドアから出るんじゃダメなのかな?

それから、何日か後に、まったく同じ授業があった。
正直これは、何の授業なんだろう?
そう思いながらも、また振付をこなす。
ベンチに座るおばさんは同じで、男性が違う。
先生はなんか怖い感じで、退場の時急きたててくる。
壁を登るところで、おばさんはやっぱり「後ろを見るな」と言う。

なんでだろう?
変だな?
って思っていると、明らかに自分たちやおばさん以外の気配がして、肌色の腕が見えた。
その腕が見えたのは、自分だけじゃなかったらしく、他の子も動揺した気配がした。
おばさんが「今のは猿の妖精だよ」「みんなが壁を登ってるのを見て、まざりたくなったんだよ」
みたいなことを言った。

猿? ダイダラボッチみたいなのが、ここにいるの?
困惑しながら、壁を登り続けていると。
猿? は、ダクトみたいな横穴に入っていって、四つん這いの後ろ姿が少しだけ見えた。

猿って、あんな色だったかな?
やけに全身肌色だった。
けど、歩き方は確かに猿だったのかも?
それにつけても、地下の出口はなんで臭いんだろう?
トイレの大の方の臭いがして、嫌な感じがした。
臭いは気のせいじゃなく、他の子も顔をしかめていた。
そう思いながらもその日も教室に戻った。

また、別の日。
やっぱり同じ授業があった。
またか、とみんなうんざりしていた。
これ、一体なんの意味があるのかな?
そういえば、おばさんの隣に座る男性はいつも違う気がする。

こないだは、全体的に丸っこい人だったけど、今日はスーツを着た細長い人だ。
TV番組でも、司会者以外のゲストの人は毎回違うから、それと同じかな?
それにしても、出口が臭いのはどうにかならないかな?
毎回おばさんも「後ろを向かないで、見ないで」とうるさい。

そう考えながら壁を登っていると。
でっぱりをつかむ自分の手の横に、自分とは違う人間の手がヌっと出来た。
ちょうど自分に覆いかぶさるように壁を登っているのだ。
おばさんはしきりに「猿みたいに! 真似してウホウホ!」とかやかましい。

怖いより、うざい気持ちの方が強かったし。
それ以上に「なんで?」という気持ちだった。
そうこうしている内に自分の手が、地上に着いた。
猿? もまだついてきてる。
じゃあ、猿の全身が分かるなあ、と思って登り切ったら。
猿? は、思い出したみたいに慌てて引き返す気配がした。
なんで? と思っていると、おばさんに「あなた本物のお猿さんみたいに上手に登ってたから、仲間と間違えちゃったのね!」
と言われた。

それ以来、同じ授業は無かった。多分。

自分はその学校にいたのが一学期までで、転校してしまったから、その学校でその「授業」がいつ頃から、何の目的で行われていたのか。
今でも分からない。

本当に何だったんだろう?

不可解な体験、謎な話~enigma~ 105

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