避難所暮らし

地震の時の話。

結構前の震災の時には俺もモロに被災して、住居自体は大丈夫なんだが、住居の上の方にある地層に断層が出来てるから、それを抉り取るまでは崩落の危険性があるという事で、避難所に放り込まれた。

だが、それまで近所付き合いはあってもそこまで深い付き合いはないという人間が、朝から晩まで、それどころか寝るときまで同じ所にいろというのは流石に無理があって、基本は外で行動していたり、寝るときには車中泊という人も非常に多かった。

だが、ある時ニュースで「車中泊だと足に血栓が出来て死ぬ」なんて事が言われ出して、結構な人数(特に女性)が「死ぬよりはマシ」という事で避難所で寝るようになった。
その中には俺の母もいた。

そしてある日、俺は毎度の車中泊を終えて、朝の食事を取りに避難所に向かうと、中に居た人が全員外にいて、うち数人は軽いパニックみたいな状態になっている。
まさかして中で死人でも出たのか?と思いつつ、外にいた母に「なにがあったん?」と話を聞くと、前の晩、避難所暮らしのストレスからか、女性二人の結構な諍いが起きてしまった。

寝る時間で消灯した後でも、まだその二人が口喧嘩を続けていた所、避難所の部屋に響き渡る位の男の大声で「うるさいぞ!!!○△×#が!!!(よく聞き取れなかった)」という罵声がした。

気の強い女性が「あんたそこまで言う事は無いでしょう!!」と言って飛び起き、電灯をつけて部屋を見渡すと、なんとその日の部屋の中には女性しかいなかった。
そしてその口喧嘩をしていた片割れが、
「今の誰ぇ…?私の頭押さえて「うるさいぞ」って言ったのよ…男の人のおっきい手でぇ…」と言うと震えだしたという。

その後、どうしていいかは判らないけどとりあえずその部屋にはいたくない、という事でその部屋からは皆で出て、寝るのもなんか怖かったから、皆で廊下で朝まで起きていたんだという。
「俺達を起こせばよかったのに」と言ったら、「そんな事考えもしなかった、皆おかしくなってたんだね」と言っていた。

その後、ボランティアの人や丁度良く訪れた町長なんかにも、「実際の所がどうか判らんけど、ここだとパニックが継続してヤバい」と言う事で話を通し、その避難所はその日限りでおさらば、使っていなかった町営体育館の方を新しい避難所として使用する事になった。
それでも、寝るときには多くの人がまた車中泊に戻り、避難所で寝る人はいなくなった。

ほんのりと怖い話105

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