茶の間の父

小学四年の時の話です。

放課後、帰宅すると茶の間に父が座っていました。
その頃、父は船に乗り込んでおり、偶にしか帰宅しないのでビックリ。
「お帰り!」とかけ寄りましたが、父はまるで私がいないかのようにキョロキョロ周囲を見回すばかり。
揺さぶっても様子は変わりません。

母は仕事で夕方まで戻らないし、ともかく、近くに住む祖母に父の様子が変だからすぐ来てくれと電話しました。
祖母に連絡がついてホッとしながら、電話のある廊下から茶の間を振り返ると、父の姿はなく…。

他の部屋も覗きましたが、狭いマンションで大男の父が隠れる場所などありません。
駆けつけてきた祖母に話をしましたが、結局、私がうたた寝をしていて夢を見たのだ、ということになってしまいました。

二か月くらい経って父が帰ってきました。
誰に聞いたのか「お父さんの夢を見て大騒ぎしたんだって?w」とか言うし、私は大変なお父さん子という設定になってしまい、なんだか気恥ずかしい思いになり黙っていると、父がこんなことを言いました。

「お父さんも船に乗っている時、よくこの家の夢を見たよ。でも夢で見る我が家はなんだか他人の家のようでね。お前もお母さんも出てこないし。知らない場所にいるようで、辺りを眺めてばかりなんだよ」

…これって、私があの時に見た父の姿そのままです。私は父の夢に引き込まれた?

その後、こうした経験はしていませんが、今でも他の方の不思議体験(急に見知らぬ風景に遭遇した…等)を聞くと、この人も他人の夢に巻き込まれたかも…なんて思ったり…。

ほんのりと怖い話106

シェアする