夏、夕立にあうと思い出す話。ちょっと長文になります。
父親の故郷は山の中のすごい田舎で、小学校中学年の頃まで、毎年夏休みには家族みんなで遊びに行ってた。
その後殆ど行かなくなったんだけど、高校受験を控えた中三の夏休み、一人でしばらく田舎へ行くことになった。
街や友達からの誘惑を避けて、何もなくて涼しい田舎でじっくり勉強したら?ということだったんだ。
婆ちゃんが裏の畑で作ってるスイカやマクワを好きなだけ食べながら、広くて涼しい田舎の家で、受験勉強に励んでたわけ。
しばらくしたある日の夕方、日課になった散歩に出てた。
田んぼの間の軽トラ一台が通れるような道が続き、その脇に家が点在してる。
里山や小川もあったりして、その辺の散歩は結構気分転換になった。
その日は急に空が暗くなって冷たい風が吹き、ポツポツ雨が降り始めた。
夕立だ。雷も鳴り始めてる。
まだ強く降ってくれるなよーと思いながら帰路を急いでいると、田んぼのはるか向こう側を、二人の人が前後になって歩いて来るのが見えた。
そこでなんかすごい違和感を感じたんだ。
二人の人は蓑?みたいのを着て、頭には三角の帽子を被ってる。スゲの笠っていうのかな。
で、手には背丈ほどあるような杖。
いくら田舎とはいえ、平成の世の中だよ?あんな時代劇みたいの被るか?
と思ってもう一度しっかり見てみようとしたんだけど、ちょっと距離があったのと、白く煙るほど雨が強くなってきたので、はっきりとは見えなかった。
で、なんか怖くなって全速力で走って帰った。
晩ごはんの時、蓑と笠を被った人を見たと爺ちゃんと婆ちゃんに話した。
二人は一瞬ぐっと詰まったようになり、顔を見合わせてから聞いてきた。
「ミノボウスを見たんけ??」「どこで?」「こっち来たんけ?」
「ミノボウズってわからんけど、そんな恰好をした人だったよ」
「何人いた?」
「二人」
「二人か…」
しばらく沈黙。
その後はいつものように、畑はどうだのこれが美味いだのという話になって、
ミノボウズとやらの話は終わってしまった。俺ももう気にしなかった。
次の日朝ごはんを食べていると近所の人が来た。
集落の○○さんが亡くなったという知らせだった。
爺ちゃんと婆ちゃんはちょっと驚いたようだったけど、手伝いに行く相談やらを始めた。
で、爺ちゃんが俺に「忙しくなるさけ、せっかくやけど家へ帰り」と言ったんだ。
俺は「へ?来てまだ一週間だし。それに構ってもらわなくても平気だけど」と答えた。
爺ちゃんはさらに「けどな、田舎の葬式はたいへんやし、ほんま構ってやれんしな」と言う。
婆ちゃんは困ったような顔をしてるだけだった。
そうこうしてると、また近所の人が来た。
今度は△△さんが亡くなったと言う。
爺ちゃんは婆ちゃんをパッと見る。
婆ちゃんも今度は慌てふためいて、
「やっぱり帰り!爺ちゃんに駅まで送ってもろたらええさけ!」
と言って立ち上がり、さあさあ支度しなさいと俺を追い立てた。
で俺は、追い出されるようにして田舎から帰ってきた。
その時は腹も立てたけど、その後はほとんど思い出さなかったんだ。
次に爺ちゃんとこへ行ったのはもう大学生の時だった。
爺ちゃんが「あの時はすまんかったなあ」と話し出したのが以下の話。
爺ちゃんの田舎では「ミノボウズ(蓑坊主だと思う)」が昔から目撃された。
雨の中、蓑と菅笠のいでたちで、錫杖のようなものをついて集落へ入ってくる。
でミノボウズが出ると、その人数分だけ集落で人が亡くなる。
ミノボウズは自分が呼びに来た人の葬式にも立ち会っているらしい。
でその葬式や葬列で自分を目撃した人を見かけると、その目撃者も後で一緒に連れていく、という。
「もう何十年もミノボウズの目撃談は聞かんようになってたさけ、びっくりしたわ。坊主はミノボウズの話を知らんはずやしな、こりゃほんまに見たんや思てなあ」
「もし坊主があの時そのまま居て、なんかの具合でミノボウズに見つけられたら、と思うと気が気でのうてな。帰してしもたんやわ」
父も、
「子供の頃にそういう話を聞いたことがあるけど、見たって人は知らないな。まさかお前が見るとはな」
と感慨深げ(?)だった。
中三で実際に見た時は、よくわからない怖さと違和感があったけど、爺ちゃんと父親の話を聞いて、急に怖くなったのを覚えてる。
これが、夕立にあうと時々思い出すんだな。
ほんのりと怖い話109