目の手術

何年か前に目の手術で入院したときなんだけど、診察で緊急度が高いとされ、個室しか空きがないため、4人部屋が空き次第移動ということで入院することになった。

手術は二度目だったこともあり順調ではあったけど、後に医者から「局所麻酔の限界だった。途中で全麻のほうがよかったかとチラッと思った」と言われるくらい、目の奥の部位を弄ったせいか、痛みが半端じゃなく痛み止めがなかなか効かず、いくつかの痛み止めのあと夜中1時過ぎに坐薬をいれてもらって、やっと少しうとうと眠れた。

目の中にガスを入れるためうつぶせしかできず、看護師が何度も上や横を向いて寝ていないか確認に何度も訪れるんだが、うとうとしていると、いきなり「○本さん!」と肩を叩かれて怒鳴りつけられた。
瞬時に目が覚めて「はいっ!」と条件反射で返事したあと、「あれ?俺○本じゃねーよ」と思いながらのろのろ起き上がると・・・誰もいない。
ドアが開いた音もしないので、てっきり看護師が来た夢でもみたのかと思い再度眠りについた。
これが一番最初の怪異(?)的なもの。

その後、奇妙な夢を連日みた。
俺が寝ているのに口の中に何か突っ込んできて無理矢理食わせようとする奴がいる。
しかもそいつが腕にぶすぶす何かを刺す。
俺は怖くて怖くて誰もいなくなった隙に逃げようとして管抜いて入り口にいこうとするんだが、足元にふわふわしたものがあってドアに近づけない。

必死でそれを乗り越えて出ようとすると、鬼のような顔をした看護師がやってきて、「いい加減にしなさい!!」と無理矢理俺の手を引っ張って病室に連れ帰られ、そしてまた腕にぶすぶす何かを刺したり、鼻に何かいれたり、目をむりやりこじ開けられたりする。
俺は怖くて怖くて少しでも反抗したら殺されるんじゃないかと思い、ただその場では大人しくして、誰もいなくなったら逃げようとする→捕まるを何度も繰返した。

病室から逃げ出して廊下に出ると、みんなが俺をものめずらしそうにみたり、何故かバカにしたようなニヤニヤした顔で見てくる。
俺は恥ずかしさと怖さで、とにかく必死で家に帰ろうとするんだが、すぐ看護師に捕まってしまう。
家に帰りたいと訴えても結局病室に連れ帰られて、また拷問のようなことを繰返される。

毎朝、目が覚めたら物凄くぐったりしていた。
うつぶせ寝だと肩や腰が痛くなり、歩く時も下を向いたりしないといけないため遠出もできず、ストレスもあってこんな夢を連日見るんだろうか・・・と思っていた。

数日後、4人部屋があいたということで移動し、そこで何度も入退院を繰り返す男性と同室になり、ぽろっとその話をした時に、その男性はちょっと考え込んだあとで、「それ、あの個室に前に入ってた婆さんじゃないかなぁ」と言い出した。
以前入っていた婆さんが○本という名前で、認知症があるため、部屋から出られないように入り口近くにマットを置かれていたらしい。

それでもよく逃げようとして廊下で看護師に捕まって、
「家に帰りたい」「××(娘らしい)が家で待ってるから家に帰らないと!」
と泣きながらつれられていく様子を何度もみた、といわれた。
結局お婆さんは、眼科の治療が終わると別の科に転院していったので、その後どうなったのかはわからないとのこと。

自分が体験したことが本当に○本さんというお婆ちゃんのことなのか、それとも単に連日のうつぶせ寝のストレスから家に帰りたいという願望なのかは正直よくわからない。
認知症のため自分が病気だとわからないので、されていることすべてが拷問に感じ、怖くて寂しくて辛くてしょうがない気持ちしかなく、楽しいことも嬉しいことも何一つ無い。
ただひたすら家に帰りたい家に帰りたいと泣いていた気持ちがあの部屋に残っていて、手術の夜、逃れられない痛みと戦う俺の気持ちとリンクしたのかな、とか思ってみたり・・・

ただ、もしかして認知症の人からみた世の中(というか病院)があんな感じだったら、怖いなぁと思った。
その後不明のためオチなしでスマン。

ほんのりと怖い話110

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