ぬいぐるみ

彼女のほんのり怖い話。

俺の彼女の部屋にはぬいぐるみが大量にある。
好きなのかと思ってたけど、同棲する際、特にぬいぐるみを持ってくることもなく、暫くはぬいぐるみのない生活だった。

ある日彼女とデートしているとき、フリーマーケットに出くわした。
暫くウロウロしてると、なんとなく目を引くぬいぐるみがあった。
なんの変哲もないんだけど、なんとなーく気になるというか。
200円のかわいい馬のぬいぐるみ、でもどことなく目が虚ろ。
隣を見たら彼女も馬のぬいぐるみをガン見してた。
そして購入した。
「その馬気に入ったの?」と聞いたら、「馬さんだよ」とさん付け。

その後、彼女はどこに行くにもその「馬さん」を持ち歩いた。
食事とかする際はテーブルに「馬さん」を置いたし、寝るときは枕元に「馬さん」を置いた。
うっかり転がった時は謝ってた。

それが一月続いた頃、彼女は気づいたら「馬さん」を持ち歩かなくなっていた。
部屋の片隅に飾られてはいるものの、触れもしない。
何となく手に持ってみたら、心なしか、馬の虚ろだった目がパッチリしていた。
なんていうか、普通のぬいぐるみの目。

馬の次に家に来たのは「クマさん」で、白くまのぬいぐるみ。
「クマさん」は馬と違い、外を散歩するときに手に持っていた。
二週間くらいでそれもなくなった。
今は馬の隣にいる。

次に家に来たのは「ウシさん」なんだけど、2つ並んで売られていて、片方が茶色、片方が白。
白い方はなんでか俺のカバンに入れられて仕事に行かされた。茶色い方は彼女が家で抱いてた。
コレは3週間くらい続いて、馬とクマの仲間入りしたと思う。

最後にぬいぐるみを持ってたのは去年の年末でニワトリで、これはどこぞのお婆さんが作ったものと聞いた。
少し遅い初詣に「トリさん」を連れて、お祓いなど専門でやっている寺みたいなところに行った。
彼女はお布施として5000円払い、トリさんを隣に置いて正座をし、長いお経を読み上げてもらっていた。
俺は正座ができないので外から眺めてた。
終わった後、お寺の方が席を外し、暫くしてからご高齢の僧を連れて戻ってきた。

そして「トリさん」を連れて行った。
帰りにお寺の方が駅まで車で送ってくださったんだけど、それとなく事情を聞いたら、「私のような仕事を選ばない人には、聞こえない方がいいこともあるんですよ」と言われた。

「聞かない」ではなく「聞こえない」と言われたことに引っかかった。
「彼女が家に持ってきたぬいぐるみが他にもあるんですけど」と言ったら、「それを見て何か感じますか?」と言われた。

「特に何も」と答えると、「なら何もないんですよ」と言われた。
彼女はずっと車中ではそっぽを向いていた。
車の移動は10分ほどで、頭の中で聞きたいことがまとまる前に駅についてしまった。
その時お寺の方に、「彼女の本質はとても温かい方なんですよ」と耳打ちされた。

その後、彼女は京都の稲荷大社の頂上でおみくじを引いたら大大吉。
それから今日までに懸賞で商品券10万円分を当て、人気旅館への一泊2日のペア宿泊券を当て、映画の鑑賞券を2枚当ててきた。
この一月の間に・・・

しかも全部自分で使うのかと思ったら、
「幸や福は与えてこそ意味がある。与えられただけのモノはただのモノにすぎない」
と、映画の鑑賞券は俺の両親に、宿泊券は彼女の両親にプレゼントした。
商品券は食事処でも使えるので、家族との食事に数万円分使った。
五万円分で俺の通勤用かばんを新調してくれた。
年下の学生の彼女なのに、何か世の摂理的なことを知っている風で、時々別世界の人なんじゃないかと感じることがある。

ほんのりと怖い話114

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