母の事を少し怖いと思っていた時期があった。小学4年生くらいの頃。
母は私が怪我をする部位を毎回のように当てていた。
自転車の練習をすれば、そりゃ毎回のように怪我もするだろう。
だけど母は、今日は右足、今日は右手、といった具合に怪我をする部位を当ててた。
サポーターとかもするんだけど、それでも怪我をしてた。
それを当時は不思議に思わなかった。
自転車に乗れるようになって少ししてから不思議に思った。
だから母に聞いてみたんだ。
「なんで私が怪我をする事がわかったの?」っと。
そしたら母は、「ご先祖様が教えてくれているのよ」と答えた。
それから3年ほどして中学1年生の夏。父と母が離婚する事になった。
原因は母親が宗教に没頭してしまって、子供にろくな物を食べさせず、神へのお布施として当時60万ほどあった父の給料の8割方を使ってしまっていたから。
3人姉弟だった私達だったけど、子供は毎日焼きそばやお好み焼きでも別に構わないのになぁ、そう思ってた。
荷造りしている母に訊ねた。
「ご先祖様は離婚の事は教えてくれなかったの?」
母は、
「ご先祖様は万能ではないのよ」
そう答えた。
中学を卒業する手前くらいに親戚のお葬式があった。
死因は心臓発作で、死ぬ三日くらい前にも軽い発作があったらしい。
それを聞きつけた母は前乗りして、誰も居ない中で死に目に立ち会ったそうだ。
母の見た目は恐ろしく豹変していて、汚いグチャグチャのもつれた髪にシワも増えて別人のようだった。
親戚のおばさんが母の名を呼ぶまで、その汚いおばさんが母だとはわからなかった。
お葬式が終わって解散した後、白い紙を両手で拝むように挟みながら激しく上下させて帰る母を見て怖いと思った。
汚い髪が上下左右に揺れてまるで妖怪のようだったんだ。
あれが宗教に間違ったアプローチで身を捧げる人の末路なのか、と考えるとほんのりと怖かった。
ほんのりと怖い話124