報道された事故だから時期や場所はボカすが、大学4年の時、バイト先の飲食店で火災に巻き込まれた。
俺は雑居ビル3階の厨房にいて、凄まじい煙で逃げ場を見失い、パニくって厨房にひとつだけあった小窓から上半身を乗り出し頭から落ちてしまった。
(もしかしたら自分から飛び降りたのかもしれない)
気が付いたら救急車の中で、なんと俺はほぼ無傷。
落ちた時にアスファルトに頭を打ちつけて気絶したらしいのだが、そのわりには検査しても頭を強打した形跡がなく、顔に擦り傷と両脚に打撲があるだけだった。
医者も首をひねっていたが、まあ運が良かったねということでとくに追及することもなく、俺は1晩で退院した。
んで、落ちた際の記憶なんだが……
飛び降りる瞬間、俺はジーンズの腰の後ろを誰かにつかまれた気がするんだ。
最初はスタッフが俺を止めようとしてくれたんだと思ってたが、あとで聞くと誰もそんなことはしていないと言う。
それから落下している最中も、俺の頭を誰かがふわっと両手で包んでくれたような感覚があった。
もちろん普通じゃない精神状態だったから、気のせいかもしれないし、飛び降りる瞬間にサッシの把手にジーンズが引っかかったとか、火災旋風にはためく幟旗に頭が絡まったとか、そんな話なのかもしれない。
むしろその可能性が高いと今では思っているが、ビルの3階から頭から落下して無傷に近かったこともまた事実だ。
2、3階から落ちて人が亡くなった事故などをテレビで見ると、人間の寿命って決まっているのかなあと不思議な気持ちになる。
ほんのりと怖い話124