入っていた声

結婚式の撮影、披露宴で流すムービーの作成、会場の予約、演出、ヘアカット、着付けなどウェディングプランナーを介さない撮影・編集のプロ集団に所属して3年目の頃。
下積みのアシスタント時代が終わって私は動画編集に回された。

業務は結婚式に限ったものではないものの、冠婚葬祭に関連した物がほとんど。
仕事が遅く、残業する事も多かった。 近年ではお葬式を撮影したいという人も増えてきて、その日はお葬式の動画をなるべく早く終わらせたいという気持ちでいっぱいだった。

夜になりまだ仕事も終えられない状況の中、飛び込みで結婚式の動画を急ぎでやってくれと言われ、プロットの作成のために各担当スタッフが退社し始める中、皆を呼び止めプロットを書いた。
時刻は22時を回っていた。

この状況を見かねたバードウォッチングなどを専門としているお爺さんと社長が、使うシーンの選別を手伝ってくれて退社。
会社に残ったのは、私と特殊性癖おじさんだけになった。
特殊性癖おじさんは洋服を撮影する人で、気に入った服があるとそれを見てオナニーする人。
あんまりにも堂々とみんなの前でやるので、社長が個室を与えた。

そんな人でも、会社に誰かしらいるという安心があって時刻がてっぺんを回っても集中出来た。
全90分にカットされた動画のグラデーションの調整を終えて、ようやくテロップを入れようとした時、後ろから特殊性癖おじさんに声をかけられた。

「変じゃん?声、入ってるじゃん?」
最初はなんの事かわからなかった。 おじさんがボリュームを大きくすると怪しげな声が入っていて

「わたしだけじゃないの…わたしだけじゃないの…わたしだけじゃないの…」

という女性のような声が連続して入っていて、マスターの方ではそのような音声は確認できず…
社長を電話で叩き起こして状況の説明をしたら、朝またやりなおそうという事になってその日は帰ることになった。

次の日、データを確認した社長が依頼主と話をつけて動画編集をやりなおし、妙な音声が入っても気にしないという条件で納品した。
納品した物には妙な声は入っていなかったが、社長曰く披露宴の映像にはよくある事なのだそうだ。

後日、依頼主から電話が入り妙な声が入り始めたのでマスターの方をノーカットでくださいと注文が入った。

ほんのりと怖い話131

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