数年前に、今も住んでいるマンションで起きたほんのりな話。
マンション1階管理人室には70代くらいの夫婦が住んでいて、午前中はマンションの共用部の掃除や管理をしてくれていた。
奥さんの方は親切で良く世間話をしたものだ。
管理人室の玄関側の窓にはいつも新鮮な花が活けてあって、暗くなってから帰ってくると花の香りがホッとさせてくれた。
旦那さんの方は何だか不思議な雰囲気で、いつもニコニコしていて趣味で絵を描いていた。
私は夫婦で6階に住んでいる。
1階にエレベーターを使って降りる際、ある時を境に、誰も押さないのに2階で止まることが頻発した。
もちろん、押し間違いではない。
2階で止まって扉が開いた先に見える廊下は薄暗く、いつも何か嫌な雰囲気が漂っていた。
一度好奇心から、上半身だけをエレベーターから乗り出して辺りを見回したことがあるが、
誰もいず、ただ薄暗い廊下が続いているだけだった。
夫にも確認したが、やはり押していないのに2階で止まることが多いとの事。
そんなことが続き、3ヶ月程経った頃だろうか。2階でしょっちゅう止まるエレベーターにもすっかり慣れた頃だ。
先の少女の事もあり、おしゃべり好きの管理人の奥さんに水を向けてみた。
「何かあのエレベーター、2階でしょっちゅう止まるんですけど、故障ですかね?」
すると奥さんは意外なことを喋りだした。
「そうなのよ、ほかの人も2階で止まるって言ってたわ。それにうちの旦那が2階が気持ち悪いって言うの。変なものを見たって」
と声を潜めて教えてくれた。
「え?変なものって?」洒落怖好きの私は当然詳細を聞こうとしたが、何かモヤのようなもの」とのことで、それ以上の情報は聞き出せなかったが、少し言葉を濁していた様に思えたのが気になった。
そんな事を聞いてしまった後は、2階で止まるエレベーターが怖くて仕方なく、乗り込んだら即「閉」ボタンの上に指を乗せて待機するようになった。
それから1ヶ月も経っていなかったと思う。
管理人の旦那さんの方が病気で帰らぬ人になってしまったのだ。
それから数ヶ月で管理人は変わり、今は明るくお喋りなおじさんが、マンションの管理に通ってきてくれている。
そして不思議な事に、管理人が変わってからは、エレベーターが2階で止まることはなくなった。
奥さんが言っていた「変なもの」とは、病気が見せたものなのだろうか、それとも・・・。
最近夫が階段を使った際に、「2階は何だかんだ嫌な雰囲気がするから行くなよ」と言っていたので思い出して書きました。
ほんのりと怖い話138