オサガミ様

老人や、都会の人の孤独死の話を聞いて思い出して眠れないので一つ。
私が子どもの時、オサガミ様を見た話。

子どもの時、親が共働きだった私は近所のおじさんのとこによく遊びに行ってたんだ。
おじさん、と言っても親戚とかでも無くたまたま公園で知り合っただけの人だったんだけど。

おじさんは婚約者が病気で亡くなって以来、ずっと独り身で私をまるで自分の子どものように可愛がってくれたのを覚えている。

そんなある日、おじさんがぽつりと話してくれたんだ。
もうすぐ、オサガミ様が来るって。

オサガミ様というのは、子供くらいの身長で、長い髪と切れ長の目が特徴の妖怪で、一言も喋らないでずっと後を付いてくる。
走っても、どれほど曲がり道を曲がろうとも、振り向けば度に近づいてくそうな。
付いてくるなと怒鳴っても表情ひとつ変えずにじっとこちらを見てきて、こちらから近づくと、不思議な事に同じ距離だけ離れてくらしい。

追いつかれたらどうなるの?と聞いたら、それは分からないと。家族がいる人には近づいてこないらしく、おじさんの周りの人も家庭を持つ人ばかりで実際に見た人はいないのだとか。

私は周りを見たけどどこにもそんな姿は見えなかったが、今はお前が居るから隠れてるよ、と言っていた。

その時は怖いな~なんて思いながら帰ったけど、家につく頃にはむしろ私を怖がらせようとからかったんじゃ?思っていた。

それから数日して、またおじさんの家に遊びに行った時おじさんは庭で何かに怯えるような感じで震えていたんだ。
近づいて声をかけた時ものすごい形相で悲鳴をあげて後退りをした。

すぐに私だと気づいたらしく、少し落ち着いてくれたが、やはりどこか怯えた様子でしきりにオサガミサマガクル…オサガミサマガ…と呟いていた。

私が、宥めながら話を聞いていると寺も神社もダメだった。
今日の夜にでも捕まってしまうと。

叔父さんの知り合いの人に泊めて貰うとか、人がいる所で寝たら?と子どもながらに精一杯考えて提案したが、知り合いの人にはオサガミ様を信じてもらえず、理由を伏せて泊めて貰えても一、二泊が限界だったと。

まさか小さい子どもの私が勝手に自分の家に泊めてあげる訳にもいかず、私がおじさんの家に泊まろうにも、独り身の親戚でも無いおじさんの家に泊まるなんてのは許可が下りるわけもなく。(一応、電話で聞いてみたけどダメだった。)

そうこうしているうちに、夕方になり帰らなければ行けない時間になった。
おじさんもそれは分かっているようで、もう大丈夫だから帰りなさい。と力無く送り出してくれた。

その夜、どうしてもおじさんの事が気がかりだった私は、夜中に両親が寝たのを確認した後こっそりとおじさんの家に行ってみた。
玄関は閉まっていたので、庭の方に回り込をやで中の様子を見ようとしていたらカーテンの隙間を見つけた。

そこから見えないかと覗き込んでみたら、丁度おじさんが横になっている姿とオサガミ様が、いた。

聞いていたとおり、長い髪と切れ長の目。
身長は当時の私より少し低いぐらい…暗くてよくは見えないが、服らしいものは着ておらず、愉しそうな笑みを浮かべて横たわるおじさんに跨っている。
おじさんの表情はよく見えないが、全く動く気配はなかった。

これはまずい、と思い咄嗟に窓を全力で叩いておじさんに呼びかけたが、こちらに気づいたのはその不気味なオサガミ様だけだった。
こちらをグルッと見たかと思うと、凄まじい勢いでカーテンの方に近寄ってきた。
その表情はさっきまでの愉しそうな笑みとは真逆の、この世の憎しみを全て詰め込んだかのような恐ろしい形相だった。

私は大慌てで窓から離れ、庭を飛び出して道路まで逃げたがそこでたまたま巡回をしていたお巡りさんに捕まった。

あちらからすれば深夜に庭から飛び出した子ども。
指導しない訳にはいかず私の腕を掴み詰問してきたが、その時私も既に錯乱状態でオサガミ様が!とか、おじさんが!とか叫んでいたはず。
そしてお巡りさんと再びおじさんの家を訪ねて見たが、チャイムは反応なし、私が仕切りに庭!庭!というのでそちらも見てみたが何もなし。

さすがに窓から中を覗いたりはしてくれず、私が知り合いの家にイタズラしていたのだろうと思われたか、自分の家に連れていかれた。

その夜、私は親にこっぴどく怒られオサガミ様の恐怖と、おじさんの安否が気になるのとで眠れぬ1晩明かした。

そして次の日、朝早くに昨日のお巡りさんが私の家にきた。
内容は、おじさんが変死していたとの事だった。
まるで、精気をすべて吸い取られたみたいな様子だったという。

昨日の私の様子がおかしいと思い、朝に訪ねて見た所発覚したと。
私は昨日までの事を全て話をしたが、どこまで信じてもらえたのだろうか……。

オサガミ様が本当にいたのかは今となってはわからない。
ただ、今でもあの時、凄まじい形相で迫ってきた恐怖だけは今でも覚えている。
幸いなのは、私が今幸せな家庭を築けている事だろう。

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