木の手桶

良人が炭を焼きに山に入ったまま降りてこないので、その妻が小さな子供の手をひいて、捜しにいくことにした。

うっそうと木が茂り、昼間でも暗い山道で一人のみすぼらしい身なりの老婆に呼び止められた。

おまえさん、どこに行くのだえ?

その姿に子供がおびえ、母親にしがみついた。
彼女もまた怪しく思い、返事もせずにやりすごそうとした。

まあ、そんなに急いで行かずとも。

老婆はにんまり笑った。子供がわっと泣き出す。

おや。ぼう、ばばが良いものを遣わしますぞ、ヒヒヒ。

そう言うと老婆は持っていた風呂敷包みからずっしりと白い餅のつまった木の手桶を取り出した。
普段からろくに食べられていない貧しい女にとっては、願ってもないごちそうだ。
女は礼をいってそれを貰い受けると、また良人を探しはじめた。

子供はワンワン泣きながらついてくる。
どこの誰だかしらないが、いいものをくれた。
これだけあれば家族がお腹いっぱい食べられる。

早く良人をみつけてこの朗報をしらせようと急ぐ妻だったが餅をもっているせいか、先ほどから蝿がうるさくてかなわない。
払いながら歩いたが、後から後からやってくる。

ふと手桶から妙なにおいがしてきたような気がした妻がよくよく手桶の中を見るとそのなかにはところどころ焼け爛れた、自分の良人の首が入っていた。

山にまつわる怖い話7

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