差し出された手

前日の強風で、倒れた腐樹が行く先々をふさぎ、彼らは崖っぷちの迂回ルートを進まざるを得なかった。
彼はそこで不注意にも足を滑らし、滑落した。

とっさに差し伸べられた同僚の手をつかむも、むなしく雨で滑り、そのまま谷までずり落ちた。
幸い、足首を骨折しただけで済んだが、同僚が不思議なことを言う。

「俺は手なんか差し出していない」と。

私が酒の席で、守護霊かなんかじゃないのか、と言うと、
「それにしちゃあ、中途半端だよな。守るなら、しっかり最後まで握っててくれないと」
そう言って彼は、豪快に笑った。

山にまつわる怖い話9

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