向かいの部屋

幽霊話ではありませんがいいでしょうか?

数年前の話です。

22~23歳当時、私は賃料が安い1人暮らし用マンションに住んでいました。
曰く物件だという事では無く、単に古い建物だというのと生活するのには便利でも、治安面があまりよろしくない場所だったからだと思います。

とは言え仕事に向かうのに交通の便もいいし、マンションのすぐ裏手には24時間営業のスーパーもあるし、マンションから歩いてすぐに大通りに出れるし、友人宅からも近いし、バストイレはセパレートだし、1人で住むには文句なしの広さもあり、多少の古さは気にも留めず、部屋探しにせっぱつまっていた私は二つ返事でそこに住むことにしました。

しかし、そういう好条件にも拘らず賃料が安いという物件です。
当然住人達もクセのある・・・というか、早い話が変な人が多かったんですね。
実害があるわけでもないので(敷地内の駐輪場に停めていた自転車が無くなることはありましたが)仕事に遊びにとそれなりに生活を満喫していました。

そんなある冬の日、うちで女友達数人と鍋パーティーをしていた時のことです。
会もお開きとなり、友人たちが連れ立って部屋から出たと思ったら、玄関先で小さな悲鳴が聞こえたのです。

当然「どうした?」と聞いたのですが、友人たちは歯切れ悪く口ごもるばかりです。
再度「何かあった?」と聞いた私に、友人の1人が「あんた、覗きとかない?」と聞いてきました。

言い忘れていましたが、そのマンションは敷地内に2棟並んで建っており、私の棟の玄関側は向かいの棟のベランダ側にあたる配置になっていたのです。
2棟の間には駐車場があり、距離は数十メートルは離れています。 
そして友人が言うには、私の部屋の向かいにあたる部屋から人が覗いていたというのです。

彼女らが言う「向かいの部屋」にはすでに覗いてる人影はもちろん、普段と変わり映えは何も無く、それまでそのような事は何もなかった私は、その時は何かの勘違いだと思い友人を送り出し、特に意に介せず普段通りの生活に戻りました。

それから数日後、夜10時ごろだったでしょうか。
仕事から帰ってきた私はいつも通り玄関先で鍵を出そうと鞄の中を探っていました。

その時、ふと向かいの部屋が視界に入りました。

水色のカーテンを閉めていましたが、遮光カーテンでは無かったのでしょう。
それまでは何も映っていなかったカーテンに人影が映り、閉じられたカーテンの隙間から眼鏡を掛けた男の顔だけがニョキッと出てきたのです。

どう考えても私が帰ってきたタイミングでこちらを覗いて来た事に、全身を恐怖が襲いました。

私は慌てて部屋に入り、友人に電話を掛けました。
先日の鍋パーティに来ていた友人に今私が目にしたものを話し、彼女らが見たものはどうだったかを聞いたのです。

するとやはり、彼女らが見たものも私が見たものとほぼ同一で、電話越しに友人の心配そうな声が届きますが、私は動揺しきっていてとても大丈夫だとは言える状態ではありませんでした。

取り敢えず電話を切り、当時付き合っていた恋人に電話をかけすぐ家まで来てもらい、事の成り行きを説明しました。

すると彼は以前も一度玄関横にあるキッチンの窓からこちらを覗く顔を見たと言うのです。
なぜその事を言わなかったんだと半泣きの私に彼は「言ったけどお前全然聞いてなかった」とため息交じりに答えました。

私がさっき目にした男の風貌を伝えると、おそらく窓から覗いてたのもその男だと言うのです。
眼鏡を掛けた細面の40代ぐらいの男性としか分からないのでもちろん別人である可能性もありますが、一度彼は向かいの棟からその男が出てくるのを見たとも言いました。 
本当に同一人物だとしたら、その男は向かいの棟から私の家の玄関まで来ていたことになります。

古いマンションです、オートロックなどありません。
当然鍵は普通のシリンダー鍵で、防犯なにそれおいしいの?状態です。

幸か不幸か恋人の彼とは半同棲状態で頻繁にうちに来ていたし見た目もごつかったので、ある意味番犬替わりになっていたのだと思いますが、その彼がいなければ・・・と思うと再び全身を恐怖が襲いました。

もちろんその家はそれからすぐ引き払いました。
それからそのような事に出くわすことはありませんでしたが、とてもじゃないけど住んでいられませんでした。

長くなりましたが、これが私が今まで生きてきた中で一番怖かった体験です。
本当に怖いのは幽霊でも怪奇現象でも無く、生きている人間です。

私は幸いにも実害はありませんでしたが、1人暮しの女性は常に危険と隣り合わせだということを知ってもらいたくレスしました。
それではROM専に戻ります。
読んで頂いてありがとうございました。

実話恐怖体験談18 

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