オッコトヌシ

お化けとかではないんだけど、数年前に俺が体験した洒落にならないほど怖い話。

俺の家には畑があって、そこで色んな作物を栽培してる。
その中に、俺が丹精込めて作った大根があった。
しかし、その俺の大根だけを付け狙うがごとく、畑を荒らすヤツが現れた。
そいつはイノシシである。

かなり巨大で、遠目に見てもオッコトヌシ量産型を軽量化したぐらいの巨大さ。
イノシシ除けを作っても、それにすら動じない強靱な精神力。
もはや、それはイノシシにあってイノシシにあらず、イノシシの王者と呼ぶに相応しいイノシシだった。

ある夜、やはり俺の畑を荒らしながらブヒーブヒーとヤツの鳴き声が聞こえてきた。
俺は考えた、このまま大根が食われるのを、ただ見ていることはできない。
そこで、俺はある作戦を思いついた。

それは、「イノシシにドロップキックしてやろう」というものだった。

暗闇に紛れて、数匹のイノシシがひしめく畑に出た俺は、音を立てないように注意しながら、ヤツらに近づいて行く。
慌てず騒がず、しかし軽く小走り。
あの時の走行フォームは、おそらく二度と真似できないだろう。
なぜ、そう言い切れるのかと言うと、俺はその時、パーフェクトだったからだ。

他のイノシシは俺の完璧な接近に気づき逃げ出すのに、その巨大なヤツだけは堂々と大根をむさぼり続けている。
さすがはオッコトヌシ改、敵ながら威風堂々とした後ろ姿に乾杯だ。
じりじりと近づいて行くが、イノシシはまるで動じない。
しかし、俺の殺気はヤツに届いているはず、ここで気を抜いたらやられてしまう。
それも瞬く間にだ。

十分に近づき、助走を付けて地面を蹴る。
体が万有引力の法則に逆らって浮き上がるのを感じると同時に、その両足にバフッという確かな手応え。

「プギィ!!」

イノシシの口から絞り出されるような鳴き声を聞きながら、俺は顔面から地面に着地していた。
ミッションコンプリート。
着地には、やや失敗したものの、俺はイノシシにドロップキックを食らわせることに成功した達成感に浸っていた。

しかし、ここからが、壮絶な体験の幕開けだったのである。

イノシシは多少よろめいたものの、何とか踏みとどまる。
さすがはイノシシキャンセラー、渾身のドロップキックもあまり効果的ではなかったようだ。

立ち上がると、目の前にはオッコトヌシ廉価版。
廉価版と言っても「ちょっと小さなバイクですよ」と言えば「ああ、なるほどユニークですね」と返されるほどの巨体。
そいつが、「プギィ!」と鳴きながら、突進してくる様を想像していただきたい。

俺は逃げた、それも泣きながらだ。
畑の周りを何周も逃げ回り、林に入って、イノシシの猪突猛進を利用して追跡からかいくぐろうとするも、ヤツは華麗なステップで木々を軽やかに避けて、俺を亡き者にせんと追いかけてくる。
体中には小枝で切り傷だらけ、全身のありとあらゆるすべての穴から色んな汁が出そうだった。

その後、木の上に普段なら考えられないような動きで登った俺が解放されたのは、明け方近くになってから。
あんな体験はもう二度とごめんだ。
みんなもイノシシを撃退しようなどと思ってはいけない。

野生のあいつらはパーフェクトだった。

この恐怖、みんなに伝わるだろうか・・・

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