犬の執念

昔、愛知県豊根村の猪古里にある猟師がいた。

永年飼い馴らした一匹の猟犬を連れていたが、次第に彼を襲う気配を見せるようになった。
今までに何匹もの獲物を捕えた功労ある愛犬だったが、気味が悪くて仕方がなかった。

日毎に犬の態度はおかしくなり、殺すことも継ならずに過ごして来たが、ある日、思い切って山の中に連れ込み、隙を見て一発で仕留めてしまった。
そして彼は家に戻り、その場所には再び足を向けなかった。

それから丁度三年が過ぎた日のこと、且つての猟犬を思い出してどうなったか気になり出し、かの場所へ赴いた。

犬は、枯れ草の間に三年前のあの日と同じ姿で前足を立てて座っていた。
骸はカサカサに干からびて骨ばかりになっていた。

それを見た猟師は恐ろしさも感じたが、犬の執念の方が次第に憎らしく思えてきた。
「もう、これで歯向かいも出来めえ」と罵るりながらひと蹴りすると、骸は他愛もなくカサカサと崩れ落ちてしまった。

その時どんな弾みだったのか、その枯れ骨の一つが猟師の足に刺さった。
その傷は次第に痛みを増し、どうしても治らない。
そして遂には分けの分からない言葉を口走り、数日後に息を引き取ったという。

山にまつわる怖い話15

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