白い人

私が保育園に上がる前、私達は父の実家で同居する事になった。
祖父母・父母・私弟の六人家族。
だけど家には、私にだけ認識できるもう一人がいた。

最初はただの見間違いだと思って、誰にも言わなかったし気のせいですませていた。
しかし時折視界の端に白い人影が映り、顔をあげそちらを見ても誰もいないという事が続いていた。

小学校に上がり高学年になっても、それは続いていた。
私は自分の部屋があったが、入口はいつも閉めていた。
というのも一度開けておいた時、誰かが覗いていて気付くとすぐに消えた事があったからである。
母が「暑いでしょう?」と開けると、「覗かれてる気がするから嫌なの!閉めて!」といつも怒って閉めていた。

中学校に上がると、いろいろさらに顕著になった。
ガチャリと部屋の扉の空く音がした為廊下を覗いても人がいないどころか部屋すら空いていなかったり、就寝時横向きで寝ると背後の畳が誰かが忍び足で歩くように軋む音をたてたりした。

玄関前を通り奥の庭に歩いていく白い人影を見て「誰だろう?庭で工事でもするのかな?」と思い、裸足であわてて庭に駆けつけると誰もいなかった。
洗濯機の前にしゃがんでいる白い人影を母だと思い「何してるんだろう、洗濯機壊れたのかな?」と考えつつ目の前の台所への扉を開けると、そこには晩御飯を作る母がいた。
すぐに洗濯機のほうに視線を戻したが、誰もいなかった。

白い人影の話を、母にするようになった。
母は「また見えたの?あんただけそういう事言うのよねえ。この子(弟)は何にも言わないのに」と不思議そうだった。

一番怖かったのは、夜本を読んでいて寝るのが遅くなった時、自分の部屋の西側の窓が突然外から握り拳で激しく10回程連打するように音をたてて振動した事だった。
音がやんでもしばらく私は唖然とし、動けなかった。

私の部屋は二階、外はベランダも柵も全く無く断崖絶壁な危険な窓。
窓を開けるとお隣さんの家の庭が眼下に広がり、足場はない。
一番近いその庭のお隣さんの家からでも庭のせいで家一軒分ずれているため手は届かないし、棒で叩こうにも離れているし、あれは間違いなく力強く拳のようなもので叩く音だった。
時計は0時ちょうどをさしていた。

それからも白い人影は度々私にだけ見えた。
何となくわかってきたがそれは男の人で白い服に眼鏡、こちらにあまり興味はないらしい。
いつも何かをまるで純粋な子供が興味を持つように見つめている事がほとんどで、横か後ろ姿で真正面から見た事はなかった。

ある日、いろいろ具体的にわかってきたので高校に上がった頃母に「どんな人なの?」と聞かれたためその「白い人」の詳細を話してみた。

「いつも白い服を着ていて、こっちに悪い事はしないの。何か興味があるものを何だろう?って感じで純粋な子供みたいにじーっと見つめてて正面から見た事はないの」

母はへえ、と面白そうに私の話を聞いていた。
しかし、最近わかってきた事を続けて話すと、母の顔色が変わり表情が消えた。

「お父さんとおじさん(父の兄)の間ぐらいの年齢で、眼鏡かけてて…顔は二人によく似てるかな」

私は黙ってしまった母を見て、何かいけない事を言ったのかと思った。
母は、真面目な顔で私に尋ねた。

「…あんたに話した事あったけ?」
「何を?」
「…あのね、お父さんとおじさんの間には、本当はもう一人いたの」
「…え?」
「生まれてこれなかったの。…流産したんだって」

私はそれを聞いて、驚きと何故普通のいわくつきでもない住宅地でこんな現象が起きているのかが繋がった気がした。
母によると、祖母はあまり供養をしていなかったらしく、かわりに母がお線香をあげたりしていたらしい。

しかし私の今回の話を聞き、「まだいるんだね…」と少し悲しそうな顔をしていた。
母には白い人は見えていない。
だから母はその人が怒っているのかいないのか、わからない。
私はその人がいつも何かを興味深そうに見つめている時嬉しそうな事、今は怒っていたり負の感情は全く感じない事を伝えた。
母はよかった、と笑っていた。

それから私が社会人になって数年後、私達は祖父母を残し別居した。
「何故私にだけ白い人は見えたんだろう」など時折いろいろ考えた。
そして、推測でしかないが一つの結論に達した。

実は私が生まれる前、母は祖母に私をおろせと言われていた。
結婚していたものの当時ではまだ若いうちの結婚で、世間体を気にしてのことではないのかと聞かされた事がある。

もしかしたら、生まれてこれなかった自分と同じような境遇になるかもしれなかった私には気を許してくれているのかな?
最近ではそんな風に思う。
それから私の家族で唯一手術も入院も大病もした事がないのが私だけなのも、その人のおかげなのかなぁ?とか思ったりもしてる。

ちなみに白い人は、雰囲気でわかるがまだ家にいるらしい。

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