近所に住むKさんという漁師さんか聞いた話だが。
『だそうだ』という伝聞形式だらけだと読み辛いと思うので、Kさんが聞いた形で書かせてほしい。
Kさんと同じ漁協に所属している漁師にAさんとい人がいた。
彼の家は父親の代から漁師をしていて、Aさんは父親が退いた後もずっと父親から譲り受けた船で漁をしていた。
が、その船も老朽化したため、新しい船を造ることになった。
いよいよ船が完成し、その船で漁に出るという数日前にAさんは交通事故に遭い、脊椎損傷の重傷を負った。
現在でこそ車いすでの生活ができるくらいに回復したが、当時は医者から「寝たきりの可能性が高い」とまで言われたそうだ。
もちろんそんな状態では漁師なんてできるわけがなく、どれくらい回復に時間がかかるか、いや回復すら危ぶまれていたから、できたばかりの船も仲間に譲らざるを得ないとAさんもあきらめたらしい。
それでAさんは仲間に相談し、その伝手で隣町の漁協所属のWさんを紹介してもらい、彼にその船を譲ることになった。
ひょんなことから安価で船が手にはいったWさんだったが、その船での初漁のその日に事故で亡くなったそうだ。
月夜でかつ海は凪ぎ、霧も出ていなかったのに、仲間の船がWさんの船の横っ腹にぶつかったからだという。
たまたま船の外(甲板?)に出ていたから、衝突の衝撃で海に投げ出されたらしい。
結局数日後に遺体で発見されたのだが、その操作にはKさんたちも駆り出されたそうだ。
まだ漁場に着いていないのにどうして外に出ていたのか、皆首をかしげたらしい。
誰ともなく「Aさんの『念』というか、『生き霊』が船に乗っていたんだろうねぇ」という話が話していたそうだ。
商売道具、それも新造したばかりの船を一度も使わないままで他人に譲らなければならなかった無念さというのはいかばかりだったか。
人の『想い』というのは恐ろしいものだとつくづく思った。
海にまつわる怖い話・不思議な話17