99年か2000年の話。
私は長崎大学の水産学部を卒業後、同学部にある専攻科という二年制の技術系習得を目的とした科に進学していました。
二年間は机上の学問もありますが、航海実習が主なカリキュラムです。
海技士養成の専門過程です。
航海実習実習では色々と行きますが、長崎大学では学部生の実習や他大学の学術的調査も兼ねる都合もあり、東支那海に出る事が多かったです。
韓国の大学や九大が行う地震計設置や、調査目的の操業をやっていました。
長崎大学には鶴洋丸という巻き網船と、長崎丸というトロール船があったのですが、長崎丸で以西底引きをしていた時の事でした。
薄いピンク色でブヨブヨしたゼリー状の物体が揚がったのです。
ゼリー状と言っても指で突ついた程度では崩れない弾力があり、透明具合や質感はミズクラゲが近かったと記憶しています。
しかし、その大きさはサンドバッグ程あり、形は俵型でした。
ガソリン由来の工業製品に見えない事もないですが、私の認識では明らかに何か生物的なものにしか見えませんでした。
トロールをしていると、魚やヌタの他にピンク色でゼリー状の破片が網に絡まってくる事が多々あるのですが、その塊をみるまでは深海性のクラゲの破片だと思っていたのです。
ですから、その塊にはとても驚きました。
トロールをしている時は後甲板に木製の仕切り板を立て、揚網時にはまさにテンヤワンヤの忙しさになる為、その塊は右舷側に転がしてありました。
揚がった魚や甲殻類の仕分けや計測をすませ、すぐに次の投網をし一段落してからピンク色の塊を調べようとしたところ、既にセカンドサーが興味深げに観察していました。
私は、これは何なのか聞いてみたのですが分からないとの事でした。
また、操業をしているとたまにこの様な分からない物が揚がる事があること。
このピンクの塊わ初めてではない事。前のも俵型で人の背丈程だった事を聞きました。
私が驚いたのは、そのピンクの塊の存在についてもですが、それほど不可解な物を目の前にしていながら全く動じていないセカンドサーでした。
他の実習生や専攻科生も、珍しい物があるなといった程度で未知の物体に対する関心がとても低かったように記憶しています。
投網が終わって暫くはピンクの塊の周囲に人だかりがありましたが、5分程度でわらわらと船室に戻って行ってしまっていました。
確かに、操業中は分単位でスケジュールが決まっており、仕事以外の事に時間を費やす余裕はあまりないのですが、それにしても無関心過ぎると驚きました。
ボースンに至っては甲板が汚れるからレッコ(投棄)しろとか言い出す始末でした。
私が航海実習中に体験した不可解な事象は、このピンクの塊の他に幾つかあったのですが、教官や甲板員にはどれも取るに足りない事のようにあしらわれました。
それらは一緒に遭遇した人達も「あぁ、不思議だね。でも珍しい事じゃないよ。気にしてたらキリがないし。」という感じの反応を見せていたので、私の思い違いや、幽霊みたり枯れ尾花的な物ばかりだとも思えません。
案外、海に携わる人達は、我々からしたら不可解極まりないような体験を日常的にしているのではないかと思います。
怖い話というか、不思議な話になってしまいスレ違いを失礼しました。
海にまつわる怖い話・不思議な話18