車の免許取ったばかりの頃って、みんな仲間内で集まっていったことない道とかドライブしまくったりするよな。
一昨年の俺もそうで、夏休みに実家に帰ったときに、地元に残った友達から誘われて何度かドライブに行っていた、その時に起きた事件を書こうと思う。

お盆の少し前くらい、朝からかなり暑い日だったのを覚えている。
中学の頃の同級生で、地元にいた頃は良くつるんでいた腐れ縁の友達から「女の子誘ったからドライブいこうぜ」と電話があって、午前中のうちに迎えにきてくれることになった。
俺は友人がどういう意図で俺を誘ったのか知っていたが…w

要するに、友人はその時付き合いたい女の子がいて、1対1じゃ誘えないから、友達呼んで4人でってことにしたわけだった。
ぶっちゃけ俺はただのオプションなんだが、まあ連れの女の子も来るらしいし、大学行っても相変わらず全く女っけのなかった俺にとっては良い話しでもあった。

日も高くなった頃、友人が迎えに来て車に乗り込んだ。
そして友人の目的の女の子の家に迎えに行き女の子2人とも合流した。
仮に友人をT幸、T幸が好きな女の子をM衣、M衣の友達をH奈としておく。

T幸は、まず地元から近い山の中にある結構有名な観光地へ行き、そこで夕方までぶらぶらして、その後飯を食ってからさてどうしようか、という凄く安直な計画を立てていた。
計画通りに出発し、夕方近くまで観光地周辺をぶらぶらしていたりしたのだが、帰り際に寄った公園から近くの山に展望台らしきものが見え、M衣が「夜景が綺麗そうだから見に行きたい」と言い、H奈もノリノリだったので俺たちはひとまずそこへ向かう事にした。

暫らく進んでいると展望台への看板があり、その方向へ進んだのだが。
どうもどこかで道を間違ったらしくいつまで経っても目的地に到着できず、そのうち日が傾き始めてしまった。

仕方が無いので一度来た道を戻ろうかと話していると、T幸が「ちょっと一服させてくれ」と言って車を舗装されていない脇道のところに停めた。
実は、4人の中で唯一T幸だけがタバコを吸うのだが、俺含む3人は吸わないので、車内で吸わせてもらえないT幸はこうやって何度か車を停めて外でタバコを吸っていたわけだ。

T幸が車を止めた道の少し先のほうでタバコを吸い、M衣とH奈はそのまま車の中に、俺は車の外に出て外の空気を吸ったり背伸びをしたりしていた。
すると、T幸が俺に「おい、ちょっとこっち来てくれ」と呼びかけてきた。

T幸の方にいくと、俺はT幸が俺を呼んだ理由がすぐに解った。
俺たちがいる道から30mか40mくらい離れた森の中に、距離が離れているのでよくは解らないが、何かやけにでかい花?のようなものが見える。

花?と書いたのは、その物体の外輪部分が赤というか朱色っぽい色で、真ん中辺りが白っぽく見えたから。
一番表現的に近いのが花だったからだ。
大きさは遠くなのではっきりとは解らないが40~50cmくらい、花?と書いたが、形は円形というより長方形に近い。

俺はT幸に「何あれ?」と聞いた。
当然T幸にもわかる訳がなく「いや、知らんて」「つーかわかるかよ」と当たり前の返答をしてきた。

俺たちがそんな話をしていると、気になったのかM衣とH奈もこちらにやってきて、H奈が「何してるの?」と言ってきた。俺とT幸は例の花っぽい物体を指差し、俺が「あれなんだと思う?」と聞いてみた。
当然H奈にも答えられる訳がなく、「わかんない、それより早く展望台行こうよ」とあまり興味無さそうだ。

が、俺とT幸はこの正体不明の物体にがぜん興味が湧いてしまい、とりあえず近付いて正体を確かめようと、藪をかきわけて“それ”のほうへ歩き出した。
するとM衣が「ちょっとやめようよ、なんかあれ気持ち悪いよ…」と言ってきた、が、T幸は好きな娘の前でカッコイイところを見せたかったのだろう、「大丈夫だって、ちょっと待っててよ、すぐ終るから」とどんどん進んでいく。
H奈も「ねえ、もういいからやめとこうよ、私もなんかあれ気持ち悪い…」と言ってきた。

俺とT幸はM衣とH奈の制止も聞かず、とうとう“それ”から10mくらいの場所にまで近付いた。
近付いても“それ”の正体はわからなかったが、この物体がどういう形のものでどういう状態なのかははっきりと解った。

“それ”を最初俺は花のようだと表現したが、近付いてみると全く別の異様な物体だった。
今までこういうものを見た事が無いし、「似た」ものもあまり無いので、文字で表現するのが凄く難しい…

最初の方で書いたように、長方形に近い外輪部分は朱色なのだが、近くで見るとこれは花びらのようなものではなく、なんといえばいいのか。強いて一番近いものがあるとすれば磁石を近付けた砂鉄が質感的にも似ているし近い、朱色のそんなかんじの金属質のものがザワザワと蠢いている。

そして更に異様なのは中心部で、遠目にみたとき白っぽい何かに見えたのだが、近くで見てみるとそれは色白の人の肌のような質感の球体に近い物体で、凹凸や目鼻口のようなものは一切なく、何と表現したら良いのか…人間の皮膚と肉がそのまま球体になったような異様な姿で、時々息衝くように動いている。
ザワザワした朱色の砂鉄状のものが、人の皮膚のような球体の物体の外輪部を覆っている、そうとしか表現ができない。

そして極めつけは、“それ”は空中に浮いていた。
見間違いではない、暗くなり始めた森の中ではあるけど十分な明るさがある、周りに本体を支えていそうなものはないし、そもそも本体から手足が伸びているようにもみえない。
地上1mくらいのところに明らかに「浮いて」いる。
これが一番異様だった。

俺はこの異様な物体を目の当たりにして、瞬間的に怖いというよりなぜかグロ画像をみたときのような悪寒と嫌悪感を感じた。
外見上異様ではあるが、そこまで「気持ち悪い」形状の物体ではないはずだが…
横を見るとT幸も同じらしく、無言で硬直し“それ”を凝視していた。

俺はT幸に「おい、とりあえず戻った方が良くないか、なんかこれヤバイっぽいぞ…」と言った。
T幸は始め呆然としていたが、俺に言われて「たぶん…あれいきものだよな?刺激しないように逃げよう」というと、ゆっくり後ずさりし始めた。
ゆっくりと暫らく後ずさりして距離をとると、俺たち2人は後ろを振り返り早足に車とM衣とH奈ところへ歩き出した。

M衣とH奈の所まで来ると、2人が青ざめた顔で「ねえ、こっちついてきてるよ!」と俺達の後ろを指差しながら言ってきた。
驚いて俺とT幸が振り返ると、“それ”は10mくらいの距離ところに浮いている。
どうやら一定の距離を保って追ってきているらしい。

M衣が「T幸君…なんかあれ気持ち悪い、早くっこからはなれよ」と言ってきた。
俺とT幸も言われるまでもなくそうするつもりで、4人で大急ぎで車に乗り込み発進させた。
車を発進させ、これで安心だと思っていると、T幸の様子がなんかおかしい。
しきりにバックミラーやサイドミラーをちらちらと見ていて、妙に落ち着きが無い。

俺が「T幸、どうした?」というと、T幸はジェスチャーでバックミラーを指差している。
どうやら「自分で見てみろ」ということらしい。
俺はその時点でどういう事か解ったが、とりあえず自分の目で確認したいので、助手席から腰を浮かせ後ろを見た。
予想通り、リアガラス越しに“それ”が追ってきているのが見える、車は細い山道ということもあり70kmくらいの速度だが、“それ”は付かず離れずで追って来ている。

あのなんだか解らない物体は、俺たちに直接危害を加えるようなことはしないようだ、でも、「生理的嫌悪感を感じるなんだか解らないもの」に追いかけられるというのは、それだけで恐ろしい、俺はこの時それを心底実感した。

H奈が「ねえ、どうするの?あれずっと追いかけてくるよ!」というと、T幸が「とりあえずこの道をずっと下れば町中にでるはだ、とにかくそこまで逃げよう」と言った。
たしかに、相手に正体も目的も解らない以上、人気の多い場所に行くのが一番安全そうだ、“それ”も何か仕掛けてくる様子も無いし、このまま走っていれば諦めるかもしれない。

車を走らせて10分位した頃だろうか、車内に変化が起きた。
M衣が「○○君(俺)、ちょっとエアコン止めてほしい」と言ってきた。
そういえば…、ずっと追われていることばかりに気を取られていたが、なんだか車内が妙に肌寒い。

俺はまだまだ結構標高が高い場所なのと、そろそろ暗くなり始めたのが原因だろうと思い、エアコンを止めた。
が、エアコンを止めても車内はどんどん寒くなっていく。息が白いとかほどではないが、夏場とは思えないくらい車内が寒い…

俺はこの状況に混乱しながら、後部座席の2人を安心させるように「ほら、山だからこういう事もあるさ」と言ってエアコンを暖房にした。内心かなり不安だったが…
T幸も「あと20分かそれくらいでふもとの町中につくから、そうすればまた暑くなるな!」と無理に元気な振りをしている。
ぶっちゃけ無理しているのがバレバレだったが…

それから暫らくして、暖房をつけているにも関わらず、車内はどんどん寒くなっていきまるで真冬のようになってきた。息を吐くと息が白いし、なんだか耳や足の指などの末端部分が痛くなってき始めた…

暗くなってきたのでよく見えないが、“それ”はまだ車から10m程度の距離を保ちながら追ってきているようだ。
どう考えてもこの寒さは尋常ではない、あきらかに追ってきているあの謎の物体が関係している。

M衣が「H奈ちゃんだいじょうぶ?ねえ?」とH奈に声をかけている。
H奈は「大丈夫…」と言っているが、明らかに声が弱弱しく、なんかぐったりしている。
寒さのせいなのかそれとも他に原因があるのか。とにかくH奈はかなりヤバそうで、ガタガタ震えながらM衣に寄りかかっている。
その寄りかかられているM衣もガタガタ震えていて、こちらも大丈夫というわけではなさそうに見えた。

その時、T幸が「もうだめだ、もう運転できない!」とハンドルから両手を離し車を止めてしまった。
俺はT幸に「なんで停めるんだよ!今停めたらヤバイだろ!」と言ったが、T幸はガタガタ震えながら「もう無理だ!手が…」といって両手を脇の間に挟んでいる。

俺もかなり寒くて、まいっているのだが、どうもT幸はそれ以上にきつそうだ。
そこで、「T幸、俺が運転代わるわ、一端下りろ」と言った。
そして俺も車を降りたのだが…
外はあり得ない寒さだった。冬なんてもんじゃない、耳、手足の指先が刺すように痛い、鼻で息をすると鼻の中が一瞬凍るのがわかる、それくらい寒い。

大急ぎで俺はT幸と交代し、T幸が助手席に乗ったのを確認してハンドルを握った。
その時、T幸の言っていることの意味が解った。
ハンドルがまるで氷を触っているみたいに冷たい、とても長時間触っていられるような冷たさではない。
バックミラーを見ると、“それ”はまだ10mくらいの距離を保って止まっている。

俺はダッシュボードをあけると、中にある布や紙をありったけ取り出し、それで手をぐるぐる巻きにすると無理矢理ハンドルを握り、車を発進させた。
更に走っていると、M衣が「ねえ…H奈ちゃんの様子がおかしい、どうしよう…」と震えて弱弱しい声で言ってきた。
H奈は何かうわ言のように「大丈夫…大丈夫…」と言っている。
T幸が「後ろに俺の上着があるはずだから、とにかくそれを着せてやってくれ…」と同じく震えながら言った。
H奈は早く何か処置しないとヤバそうだ…

とにかくこの状況はヤバ過ぎる。
俺もそろそろ手が限界だ。何より寒すぎて体が思うように動かないし、なんか判断力も鈍ってきている。
と、その時、やっと森が開けて人家や町並みが見えてきた。
車の中はまだ尋常じゃないくらい寒いし、後ろから“それ”もまだ追ってきている。
でも、俺たちはそれだけでもかなり気が楽になった。

そして更に進むと、道の先に総合病院っぽい大きな白い建物が見えてきた。
M衣とH奈、とくにH奈はかなりヤバイ状態だ、俺とT幸も言うほど無事ではない、とにかくなんとかしないといけないと思った俺は、車を飛ばし病院の玄関へ横付けすると、ガタガタ震えながらドアを開けて助けを呼んだ。
寒すぎて体がうまく動かず、声も小さかったが…

この時気付いたのだが、外に出ると外は十分すぎるほど暑かった、熱帯夜の暑さだ。
後ろを見ると、いつのまにか“それ”も消えていた。
どうやら助かったらしい。

玄関の異変に気が付いたのか、病院から看護婦や何人かの人が出てきて、俺たちを病院内に入れてくれた。
M衣とH奈は担架で運ばれていった。

その後、俺とTはどうも軽い低体温症にかかっていたらしく、病院内の風呂に連れて行かれて風呂に入らされた。
M衣とH奈、とくにH奈は症状が結構重いらしく、どこか別の場所で処置を受けているらしかった。

30分後くらいだろうか、やっと俺は震えが止まり、風呂から上がり服を着て出されたホットココアを飲んでいると、事件性があると通報されたのか、警官2人が俺とT幸のところに事情を聞きに来た。
俺たち2人は嘘をついても仕方が無いと思い、あの場で起きた事を全てありのままに話したのだが、当然の事だがまったく信じてもらえない。

一応警官はT幸の車の中を調べたり、別の警官が俺たちがあの奇妙な物体に出会った場所まで行ったらしいのだが、それらしき証拠はなにもなく、最初俺とT幸はかなり疑われ尿検査までさせられた。
まあ、今から考えれば真顔であんなこと言えば薬物中毒か酔っ払っていると思われても仕方が無かっただろうけど…

その間たぶん2時間か3時間くらいだったと思うのだが、とにかくその間にM衣とH奈も回復したらしく、症状の重かったH奈は安静を取って今日1日は入院ということらしいが、後遺症もなく助かったようだ。
警察も、事情を聞く限り事件性は無さそうという事で、なんでこんな事になったのかはこれからも調査するから、また事情を聞くかもしれないと言って帰っていった。

その後、M衣とH奈の両親がやってきて、俺とT幸とM衣が事情を話したのだが、反論とか疑いの目とかは無く聞いてはくれていたけど、まあ信じてはいなかっただろう。
とりあえずH奈の病室に全員集まり、いろいろと話をして、俺もT幸もM衣も回復したとはいえ消耗しているので、早々に帰って寝るようにと医者に言われ、病室を出る事にした。
M衣はそのまま両親に連れられて帰って行った。

俺とT幸も病院を出て帰ろうとしたのだが、病院のロビーでちょっとしたトラブルがあった。
本編とは関係ないので省くが。
H奈は翌日には予定通り退院し、その後俺たちにはこれと言って何も起きていない。
強いて変化があったとすれば、T幸とM衣が付き合いだし、東京にいる俺に軽く殺意を覚える写メをしてきたことくらいだろうか…

最後に
結局あれが何だったのかは全く解らない、そもそも生物っぽくはあったが、本当に生物だったのかすら解らない。
完全に俺の主観なのだが、あれは幽霊とかそういう類のものでは無いような気がする。
もっと物質的というかなんというか、そういうもののように見えた。

死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?271

シェアする