幽霊が見える儀式

都市伝説みたいなものは、大半が誰かが適当に言ったものが伝言ゲームで広まって行ったり、ちょっとした事に尾ひれが付いて、どんどん話が大きくなっていったりするものだと思う。

これは、元々「やばいもの」だった内容が、伝言ゲームされていくうちに改編されて無害なものになっていったり、逆に無害だったものが偶然に偶然が重なってヤバイものになってしまうという事もあるんじゃないかと俺は考える。

あるいは、元々ヤバイ内容なのだが、意味のみが改編されていて、別の内容で伝わっているものもあるんじゃないだろうか。
都市伝説や噂ってのは、出所不明なだけにそういう得体の知れないところもあるんじゃないのかなと。
考えすぎだろうか?

なぜ最初にこんな事を書いたのかというと。
俺が中学生の頃に起きた出来事が、今考えると「そういう事」なんじゃないかと思えるからだ。
前置きが長くなってしまったけど、本題の中学生の頃の出来事を書こうと思う。

中学2年の夏休み、何人かで友達の家に集まって遊んでいると、 そのうちの一人が霊が見えるようになる儀式?の方法を従弟から聞いたのでやってみようと言い出した。

やり方は今考えると凄くありがちなもので、深夜0時に合わせ鏡をし、水の入ったガラスのコップを桑の葉を下に敷いて鏡の間に置く。
そして、コップの上に和紙で蓋をしてその上に川原で取ってきた丸石を置き一晩放置する。
翌朝、その水を飲むというものだった。

俺たちは良く考えもせず、面白そうだと言う理由でこの儀式を実行した。
ただし、桑の葉が見付からないのでその辺の大きな葉っぱで代用し、川原に丁度いい丸石がなかったので比較的角の少ない小石を使い、更に深夜0時からではなく午後4時頃に水をセットしたが…

翌朝、俺たちは昨日の友達の家に集合すると、全員でコップの水を回し飲みした。
しかしとくにその時は何も起こらなかった。
午前中は適当に遊び、午後は各自家出飯を食ってからまた同じ場所に集合しようという事になった。

その日の午後、ぼつぼつと皆が集まりだした頃、仲間の一人が真っ青な顔でやってきた。

「俺、見ちゃったよ…」

そいつはそう言った。
何を見たのかは言うまでもなかった、そいつは幽霊を見たらしい。
誰もあんな儀式で幽霊が見れるとは内心思っていなかった俺たちは、ちょっとわくわくしながら現場へと向かった。

現地に着くと、そこは何の変哲も無い路地なのだが、教えられるまでもなくそこに明らかに人とは違う何かが「いる」のが解った。
一見すると普通の人に見えるのだが、輪郭がぼやけているというかなんかはっきりしない。

俺たちはビビりながらも遠くからそいつに石を投げたりしてみた。
が、そいつは何の反応もしない。
調子に乗ってそいつに近付いたりしてみたのだが、どうも俺たちのことは全く見えていないのか、何の反応も見せない。

どうやら幽霊というのは、テレビやマンガに出てくるものと違ってそういうもののようだ。
俺たちは他にも幽霊がいないか探してみる事にした。

半日町中を歩き回った結果、殆ど見付からなかったが比較的町で一番大きい総合病院とその周辺には多いようだ。
良く見てみると、どういう違いなのか良く解らないが、比較的輪郭がはっきりしている幽霊もいれば、輪郭どころか全体がモザイクがかかったようにぼやけているのもいた。
そして、最初の幽霊と同じように、全員が全員俺たちが近付いても全く見向きも反応もせず、その場に佇んだりゆっくりと歩いたりしていた。

幽霊が予想に反して全く無害な事がわかり、少し飽きてきた俺たちは 「これ、いつまで見えるんだ?」というような話をしていたときだと思う。
急に物凄い轟音で

ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォン!

今まで聞いた事の無いような、地響きのような音が聞こえる。
かなり大きな音なので俺たちがあたりをキョロキョロしてみると、不思議な事に周囲を歩いている人は何も反応していなかった。
音は俺たちにしか聞こえていないようだった。

音が終ると同時に、ビルとビルの隙間から上下とも灰色の、まるで布を被っただけのような服を着た人がフラフラと出てきた。
頭は坊主で全く毛が生えておらず、肌の色は…上手く説明できないのだが骨折とかして直りかけると、肌の色が少し黄色っぽくなるよな、あんな感じの斑の黄色を想像してほしい。

そいつは俺たちをスルーして近場にいた幽霊のところに行くと、かなりえぐい事をした。
信じられないくらい大口を開け幽霊の頭に噛み付き、まるでヘビが獲物を飲み込むように大人一人サイズの幽霊を丸呑みしてしまった。

幽霊はそいつに掴まれた瞬間一瞬驚愕の表情をしたが、それ以上は抵抗せずなされるがままに飲み込まれていたのが印象的だった。
そして、俺たちの前をよたよたと歩きながら通り過ぎ、今度は病院の方へと入っていった。

全員唖然として何も喋れず動けなかった。
暫らくそのままだったが、ふと我に返った俺たちは、さっきの幽霊を飲み込んだやつがでてきたビルの隙間を覗き込んでみた。

覗き込んだ瞬間、俺たちはすぐに顔を引っ込めた。
信じられないことだが、そこには何もなかった、ただ真っ暗で何も見えない空間が広がっている。

時間はまだ5時前、夏なので十分明るいし、明るいところから暗いところに急に行くと目の前が真っ暗になる事はあるが、この隙間は人1人が余裕で通れるくらい広いのでそこまで暗くも無い。
そもそも全く何も見えないなんて事は普通はありえない。

恐る恐る俺がもう一度その暗闇を覗き込むと、突然暗闇からか顔が見え、さっきと同じ姿の灰色の服を来たやつが出てきた。
俺は大慌てで飛びのいた。
そいつはさっきのやつと同じように、俺たちには見向きもせずに今度は病院とは反対方向へとヨタヨタと歩いていった。

一体あれは何なのか、皆で話したが答えが出るわけでもなく、結局その日はそのまま解散し、明日考えようという事になったのだが、困った事に次の日には幽霊も灰色の服の人も全く見えなくなってしまっていた。
俺たちはその後何度か同じ「儀式」をやってみたのだが、結局同じものが見えることは二度となかった。

以上で当時の話は終わり。
終わりなのだが、最近ふと考える事がある。
あの儀式は本当に幽霊を見るためのものだったのだろうか、そもそも、完全に正しい手順をしたわけでもないのに、なぜ幽霊が見えたりしたのか。
もっと言えば、あれは本当に幽霊だったのだろうか?考えれば考えるほど解らなくなる。

更に別の疑念がある。
考えすぎなのかもしれないが、あの暗闇から出てきた灰色の服の人、もしかして、俺たちはあの儀式であれを呼び出してしまったのではないだろうか。

俺たちに見えなくなってから、あの幽霊達や灰色の服の人はどうなったのだろうか?
今でも当時と同じ事を繰り返しているのだろうか?
そもそも幽霊達や灰色の服の人達は本当に人間に無害な存在だったのだろうか?
今でも訳が解らず恐ろしくもある。
でも、結局俺たちには事の真相を確かめる手段が何も無い。

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