向いの寂れたアパート

うちの向かいにアパートが立っている。
古いアパートで2階建て全8部屋のそのアパートは1階の両端二部屋しか入居者がいない。

うちはベランダ側に面しているが、いつも両端以外スライド式のシャッターが閉められている。

親から聞いた話だと30年前にここに越してきたときは左端の一部屋しか入居者がいなく、それから何年かたって右端に入居者が入ったらしい。
それから二十数年、一人も新しく入居する人はいない。

3月11日のあの地震。
特に大きな被害はなかったが向かいのアパートの二階、左端の部屋のシャッターが外れかかっている。

何日たってもそのシャッターはそのままで、不動産屋が直しに来る気配はない。

それから何日か経って、かなり風の強い晩があった。
朝になり新聞を取りに外に出ると、向かいのアパートの外れかかっていたシャッターが完全に外れ、薄汚れた窓がみえる。

その窓から中が見える。
天井から何かがぶら下がっている。

首吊り

人が首を吊っているように見える。
父が起きていたので外に連れ出し見てもらった。

「首吊りに見えるな。警察に連絡しようか。」
父が警察に連絡しようとしたが止めた。

30年以上使われていない部屋でそんなことあるのか?
窓が汚れていてそんなふうに見えるだけじゃないのか?
早とちりで大騒ぎするのは恥ずかしい。

アパートには古びた入居者募集の広告が貼られている。
ここに書かれてる番号に電話して中を見てもらうほうがいいかもしれない。

朝6時前。
誰も出ないだろうが、ことが事なだけに早いほうがいい。
そう思って電話してみたがやっぱり出ない。

かなり気持ちが高ぶっており、数分置きになんどもかけていると・・・出た。

相手「・・はい、どなたです。」

俺「早朝からすいません。××不動産でしょうか? 私、○○(アパート名)の裏向かいに住んでる者ですが、あの・・・うちから見て二階の左端の部屋のシャッターが  風で外れていまして中が見えるんですよ。で、人が首を吊ってるようなのが見えるんです。」

相手「えっ・・・え~と、○○ですね。警察には連絡してますか?してない? そうですか。しなくて結構ですので。はい。わざわざありがとうございます。すぐに向かいますので。」

父が家を出て数分後、不動産屋が来た。
60手前くらいの小太りのおじさん

「お電話をくれた方ですか?どうもすいません。 あれはですね・・・ むかし私がふざけて人形をぶら下げたんですよ。それをそのままにしちゃってたんです。いやいや、すいませんほんとに。 すぐにシャッター直しちゃいますから。また後日、きちんとお詫びに参りますので・・・もう大丈夫ですから。中にお入りください。それでは。」

一方的にまくし立てられ家に入らされてしまった。
あれが人形・・・
まぁ人形と言われればそう見えるけど。

気になり窓から見ていると、はしごを載せた車がアパートの前に止まり二人のおっさんが出てくると、アパートにはしごを掛け二階左端の部屋のベランダに登った。

シャッターを直すとその上から板を打ち付ける。
あっという間に終わらせて帰ってしまった。

なんだか一気に気が抜けた。
急いで準備をし仕事に出かける。

その日の夜、菓子折りを持ってあの不動産屋が来た。
母が出たが、俺にお礼が言いたいらしく呼ばれる。

「どうも。今朝はありがとうございました。あなたが連絡してくれなかったら誰かが警察に連絡してたかもしれません。そうなるといろいろ悪い噂になって困るんですよ。本当にありがとうございました。あの・・このことはくれぐれもご内密にお願いしますね。さっきも言いましたけど悪い噂になると困りますから。」

あれから2ヶ月。
老朽化に加えあの地震によるダメージにより向かいのアパートは今年の夏ごろに取り壊されることになった。
両端の入居者も今月いっぱいで退居するらしい。

いつ取り壊されてもおかしくないほど古いアパートだがあまりにも絶妙なタイミングだ。

父に「おかしくない?」と聞いてみたが「変に詮索するな。関わらないほうがいい。」とのこと。

人形は今もあの部屋でぶら下がっているのか。
それとも深夜に運び出されたのか・・・
まぁ変に詮索する気はない。

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