夜、路地を歩いてると向こうから人が歩いてきて、お互い妙に意識してしまうことってあるよね。
その日はちょっとしたハイキング気分で前から目をつけてた登山コースを歩いてみようと思ってた。
そしたら当日寝坊しちゃって、気付いたら午後。それでも我慢できずに行ってみたわけ。
結構メジャーな場所だから、道は踏み固められて、ヘンに曲がってもいない。
本格登山したい人は物足りないだろうけど、俺には十分だ。
登っているとすれ違う人が沢山いた。
おそらく帰りの人だろうね。
こんな時間から登るの?って顔されて、ちょっと恥ずかしかった。
引き返そうかとも思ったけど、登り始めたし、無理矢理行ってみた。
上まで行って俺が帰ろうとしたときは、あたりは夕暮れで誰もいない。
急に怖くなってさ。
昼間は賑やかだったろう登山道も、放課後の校舎みたいな不気味さが感じられて。
でも、帰り道だからあとは急いで降りるだけだし、迷わず下山しはじめた。
足早に、ちょっと足を滑らせながら降りていると、道の向こうに人影を見つけたんだ。俺と反対に登ってくる人。
一本道のあちらとこちら、夕闇の中に俺とその人。
この違和感、わかるかな。
心臓がバクンッって跳ね上がって、汗がダラダラ出てきてさ。
なんだかわからないけど、このまま進んではいけない気がした。
けど瞬時に「今ここで立ち止まったら、相手に意識されるかもしれない」とも思った。
気にせずすれ違う、これが最善と判断したよ。
だけど、相手との距離がだんだん縮まるにつれ、足がすくんでくるんだ。
冷静になったら、やっぱりおかしいんだよ。この時間に登ってくるのは。
俺、知らぬ間に立ち止まっちゃってた。進みたくないんだ。
そしたらさ、何故か相手も立ち止まるの。
俺の方からは相手の顔までは見えないけど、登山客っぽくはあったと思う。
そんで、じっと俺の方を見てるんだよ。いや、俺を、見てる。
でも、このままじゃ帰れないし、もう1Kmくらい歩けば人気のある場所に出れるはずだった。
気の迷いだと勇気を振り絞って一歩踏み出してみたらさ、その人もまた登り始めて。
で、俺がビックリして止まったら向こうも止まる。
既に俺の中では人間かどうかも疑わしい状態。
ダッシュで脇をすり抜けようとしたら、相手も俺に向かってダッシュし始めた。
それを見て慌てて止まれば、そいつもピタリと止まる。
そんとき顔が見えた。形は普通のオッサンだった。
でも、表情が笑ってるんだから怒ってるんだかわからないもの凄い顔だった。
で、全身が微動だにしないの。顔も能面みたい。
ヤバイヤバイヤバイって頭の中がぐるぐるして、少し戻るけど別の道から降りようと思った。
予感はしてたんだ。走り出したらもう止まれないって。
案の定、踵を返してダッシュしたら、背後からもの凄い勢いで追いかけてくる誰かの足音が。
もともと疲れてたから、足は遅々として進まない。てんぱっちゃって。
でも、追われるから走った。
気付いたら下山できてた。振り向いても、誰もいなかった。
それが何かトラウマでさ、人気の無いところで人とすれ違うのが怖い。
山にまつわる怖い話23