人間の腕のようなもの

小学生のころ、私はよく祖父母の家に遊びに行っていた。

家の近所には貯水槽があった。
安全のため鉄格子で蓋をしてあり、その上からさらに金網をかぶせてある。
鉄格子も金網も赤茶色く錆びていて、溜まっている水も暗く濁っており、縁には藻類が繁茂している。
背後にはすぐ雑木林が茂っていて、薄暗い場所だ。

今思い出しても気味の悪い場所であった。
だが、当時の私はかぶせてある金網に乗ってトランポリンのように飛び跳ねて遊んだりしていた。

ある日、ふと水の中を見ると、ぼんやりと白くて長いものが見えた。
不思議に思い、目を凝らすとそれは人間の腕のように思えた。
色は真っ白。肩から先のみで、肘の関節が45度くらい曲がっている。
そして先端には菱形のシルエットがうかがえた。

ここまでだと普通かもしれないが、水の中のそれは一際異彩を放つ特徴を持っていた。

物凄く長いのだ。

腕だけで当時の私の身の丈ほどもあろうかという長さだ。
そしてゆらゆらと揺れている。
私は棒切れを手にとり、金網の隙間からそれをつついてみた。
軽い。まるで手ごたえがないようだった。
しかし型崩れすることもなく、やはり動きは腕のようであった。

腕が現れたのはその日一日のみだった。

不可解な体験、謎な話~enigma~ 14

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