大学んとき住んでたアパートの隣人の話
見た目ふつーの主婦って感じ。
30代後半ぐらい、小柄で大人しそうな人。
大家さんは奥さんって呼んでた。
たまに顔あわせたら軽く挨拶してたんだけど、その度に「夜うるさくなかった?」とか「ごめんね」とか謝られた。
壁が薄いとか意識したことなかったし、玄関扉を閉める音が響く程度だったんで、正直何のこっちゃと思いながら適当に合わせてた。
ある夜友達二人と部屋で飲んでたときに、友達Aが「なんか泣き声が聞こえる」って言い出した。
俺と友達Bには聞こえなかった。
俺とBはハイハイみたいに流して飲みなおしたが、Aは納得がいってない様子だった。
その日を境に隣から赤ん坊の泣き声が聞こえるようになった。
別にオカルトな感じじゃなくて、単純にすげー小さい音量だったんで俺が気づいてなかった。
しばらくして、また俺の部屋で飲む機会があった。
今度は友達Aと二人きりだった。
なんとなくお互い泣き声の話題は避けてたんだけど、会話が途切れたときに丁度隣から聞こえてきた。
Aがチラッとこっちを見た。
俺は素直に、赤ん坊の声聞こえますごめんなさいって謝ったが
A「いやいや、この声は女の人じゃね?」
よく聞くと確かに奥さんの泣いてる声だった。
夫婦喧嘩でもしてるのか。
俄然テンションが上がるクズ二人、お隣の修羅場を酒の肴にと壁に耳をあてた。
するとすぐに食器の割れる大きな音がした。
Aも俺もちょっとマズいんじゃないかと思ってお隣に行ってみた。
ドアをノックして声を掛ける。
奥さんの声は聞こえるけど返事は無い。
玄関に鍵はかかってなかった。
こっちは二人だし揉めても何とかなるかと思った。
開けますよ、と声をかけて玄関を開けた。
ワンルームなんで玄関を開けたら部屋の奥まで見える。
サンダル二足と戦隊ヒーロー柄の小さな靴。
座り込んで泣いてる奥さん。
割れた皿。
倒れた箪笥と中から出た衣類。
ひっくり返ったちゃぶ台。
ベビーベッドと積み木とガラガラのおもちゃ。
ベランダに干してある女性下着とベビー服とトランクス。
奥さんの頬には殴られた痕があった。
大丈夫です、ごめんなさい。
奥さんが泣きながら答えた。
そうですかと言って扉を閉めた。
Aの顔を見た。
口だけ笑ってた。
俺も似たような顔だったと思う。
部屋に戻って飲みなおしたが会話は無かった。
しばらくして、赤ん坊の泣き方の声が聞こえてきた。
その日以降、隣から聞こえる音は気にしないように生活した。
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