破滅まで

その日、彼女といつものようにデニーズで晩飯食いながらおしゃべりをしてたんだ。
付き合い自体は一月にも満たなかったんだが、友人として数年ほどの付き合いがあった
いつもなら、くだらないバカ話なんかをして、お互いの近況を話したり、その後にお泊り~なんてパターンなんだけど、その日の話は違ってた。

「ちょっと相談があるんだけどいいかな?」
たいしたアドバイスは出来ないぞと思ったが、聞いてみた。

同僚の浮気話とのこと。
彼女の仕事場の同僚A(既婚女)が浮気をしている、と。

少々複雑なのが、その旦那(B)のほうも浮気をしてるようなのね。
で、Bの浮気の相手ってのが、Aの親友で同僚の女C、Aの浮気相手がCの旦那のD、つまり、お互いの夫婦がクロスするように浮気しちゃってるんだと。

「Aに相談を受けてるのね。これどうしたらいいと思う…?」
ヘビーな内容だなと正直思った。

「まぁ、お互いがそれぞれ別な相手を好いてるんなら4人で話し合ったほうがいいんでない?他人が口出すとかえってややこしくなるんじゃないかの?」
「それが、ただの浮気だけならそうなんだけどね……」

そういって折りたたんだコピー用紙を取り出した。
その手紙には大きく絵が描いてあった。

爬虫類を思わせるような肌に角。
肉食獣のようなたくさんの鋭い歯が見える裂けた口、とがった耳。
読んでる本人を睨みつける目、上半身はゴツイ体で手には長い鉤爪。

なによりも恐怖をそそるのが目だった。
睨みつけられている印象を受けるんだが、抑揚が無い無表情な目にも見える。
これはコピーなんだが、オリジナルのほうは印刷したような感じではないが、黒っぽいインクで描かれてたらしい。
紙に筆圧の跡があったことから手書きなんだと思う。
絵は手書きなのに、その下にワープロの無機質で大きな文字で

破滅まであと四

と書いてあった。

正直、度肝を抜かれた思いだった。
楽しく食事して、それが終わったらムフフな一夜に~というピンク色な思考が一気に吹き飛ばされた。

「…なにこれ?」
「Aのデスクの上に真っ黒な封筒が置いてあって、その中にこの手紙が入ってたの」
「これが浮気と関係ある…?」

まぁ、あるんだろうなと思った。
相当気合の入った絵だと思う。細かいところまで書き込んであるし。
憎しみというか、悪意のような、見ていると嫌悪感を覚えるような絵だった。

「実はそれ、数字の四の部分あるじゃない?七から始まってそれが4通目なのね。…不定期に手紙が届いてるのよ。今回は机の上だったけど、自宅のポストだったり、ドアの隙間だったり。」
「絵のほうも毎回描いてるみたいで、似た感じではあるんだけど、ところどころ違うのね。」

よく見てみると、鉤爪の部分から黒い液体が滴ってる描写があった。

「文章は同じ?数字だけ減っていって?」
「そう」

「浮気した日とか、お泊りした日とか、そういうのをカウントしてるのかな…?」
「そのあたりは本人が最初に考えたみたい。けど、思い当たらないって。お泊りした直後に必ず来るわけではないし、何もせず普通に話したりした直後にくることもあったとか。」
「この手紙は今日来たのね。最初はただのイタズラかと思ってたんだけど…さすがに気味悪くなって…N君(俺の苗字)怖い話とか推理モノとか好きじゃん?わからないかな?」

「わかんねーよ、そんなの…お話はお話だしよ…このカウント、…何をカウントしてるのかはわからないけどさ、破滅ってなんだろな…」
「…離婚…かな…?」

自身無さそうに答える

「…まぁ、世間一般なら離婚は破滅には違いないだろうけどさ…なんかこれ、もっと深刻なモノなんじゃないの…?」

離婚してもお互い思い思いに再婚できるから、それだとむしろ好都合なように思った。

「………」
「こんな悪魔だか、化け物だかわからんけど、毎回手書きとか、…怨念こもってねぇ?多分、4人の誰かは悔しいから相手を寝取り返してやったとか、そういうのなんじゃん…?それなら憎しみも燃え上がるだろ…」

実際には、絵からは燃え上がる憎しみというよりどろどろの汚泥をイメージしたけど

「冗談じゃなく、殺人事件とかになる前に、お互い浮気はやめて、夫婦同士会わないようにしたほうがいいんじゃないかなー…」
「…そうだよね。やっぱりそうしたほうがいいって言っておく!久しぶりにあったのにごめんね。こんな話題で。気味の悪い話じゃない?他人を巻き込んだら悪いなって思って誰にも話せなかったの」

俺「………」

こんな感じでこの話は終わったんだが、思いのほか長話しちゃったようで、土曜だったこともあっていつも使ってたホテルが満室だった。なので別なホテルにした。
外の見てくれは綺麗だったんだが、中はちょっとボロめな感じだった。
部屋の中がタバコ臭くて、マジ外したなーと思った。
風呂に入ったらさ、白いバスタブの外側の隅っこのほう、赤茶けてるんだよな。
金属類はその付近になかったから錆びじゃなさそうだった。

正直、あんな話のあったあとだから気味悪くって、彼女には言わないでおいたんだ。
んで、やることやって眠ったら、雨が降ってる夢だったかな…全体に灰色がかってて、雨どいに水がたまっていくのが印象に残ってて、というかそれしか覚えてないんだけど、起きた時寝汗がびっしょりになって、起きた。
雨以外にすごい不気味な何かを見たんだけど、思い出せなかった。
彼女も起きてた。

あっちは夢の内容全然思い出せないけど、やはり怖い夢をみたとかで目が醒めたらしい。
いつもなら時間延長して昼過ぎまで寝っころがってるんだけど、今回ばかりはすぐチェックアウトした。
コピーもその場で捨てた。

2週間後の土曜に再び彼女と会った(付き合っては居たんだけど、毎週とか隔週に会うだけだったのね)
例によってデニーズでメシ食ってたら、またコピーが出された…

「またかよ……ってか、浮気やめてないのか……」

超ビビリながらもあきれつつコピーを開いた。
絵は描いてあった。
まず飛び込んできたのは目だった…
もう睨んでる感じとか無表情に見えるとかそういう段階じゃない。
目が一回り以上大きく書かれて見開いてて、はっきり読み手を睨みつけてる…

もうね、思わずコピーを突き飛ばすようにテーブルに手放したよ。
口は…見えなかった。
口のあたり、インクをこぼしたような感じで真っ黒くなってた…
鉤爪は腸のようなものを掴んでおり、滴ってた液体も前より多く描かれてた。

破滅まであと二

正直、本当に勘弁して欲しかった。
この時点で彼女の親友Aはまだ浮気をやめてなかったらしい(ビビってはいたけど、やめられなかったのだとか)
このコピーのオリジナルの手紙は、インクをこぼしたような部分に血のようなものがこびり付いてたらしい。
コピーだから黒くうつったわけね。

結局、破滅まであと二の直後に、4人とも退社したらしい(というか来なくなってしまった)
AB夫婦の家をたずねたが、すでに空家になっていた。

今から5年くらい前の話。俺的にはシャレにならなかった話です。
文章書きなれてないんで、見苦しいところあったと思いますがご容赦を。
読んでくれてありがとう。

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