こっちと向こう

昔、山歩きの好きなじいちゃんと一緒に、自分とこの山を枝払いついでに歩いた時のこと。

昼間でも枝が鬱蒼と茂ってて暗くて子供心に嫌だなぁと思ってたけど、ふと遠く後ろに歩いている人影が見えた。
方向は俺らと同じ方向。

「こんな山でも歩いてる人がいるんだ」と、ちょっとホっとしたのも束の間、じいちゃんが俺の手を掴んで足早に歩き出した。

後ろからはその人影が呼ぶ声が聞こえてきた。
多分、「よーい」とか「ほーい」とかそういった感じの声だった。

呼んでるよ?とじいちゃんを見上げると、口に人差し指を当てて、「シー」の仕草をし、「振り返っちゃダメだぞ」とじいちゃん。

リュックから、なんていうのか、酒を入れるアルミの水筒みたいなのを出して、道を塞ぐように中身をバッと撒いた。
そのまま「振り向くな」と言われ続けてその場を後にした。

じいちゃんに抱きかかえられるようにして、歩いている時ちらっと見えたのは、液体を撒いた場所辺りで立ち尽くす人影。
遠目でよく見えなかったけど、ザンギリ頭というのか、ボサボサの頭に白っぽい服を着てた。

結局、その日はそのまま別の道から下山して帰宅。
その時のことをじいちゃんに聞くと、「山には得体の知れんものがいるからなぁ」と言うだけ、詳しいことは教えてくれなかった。
また、同じようなことがあったら、「枝でも石でもいいから道のこっちと向こうに線を引け」と言われた。

今から20年前、俺が小学校に上がったばかりの話。

山にまつわる怖い話28

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